祝福花は私を映さない
花占師ユルハは、婚礼を控えた者のために〈祝福花〉を育てる。
真に望む相手の名を胸へ抱いていれば、花弁にその人の色が浮かぶ。
偽りがあれば、花は白いまま枯れる。
ユルハ自身の婚礼は、夏至に決まっていた。
相手は騎士セイダン。
幼い頃、彼の家が飢饉に遭ったとき、ユルハの一族が助けた。その恩を返すように、セイダンは彼女を守り、やがて婚約を申し出た。
彼は誠実だった。
けれど南の果樹園からミレイアの名を聞くたび、声が一音だけ明るくなった。
ミレイアはセイダンの幼馴染だった。
家族の事情で南へ移り、二人は別れた。
ユルハは知らないふりをしていた。
婚礼の七日前、ユルハは自分たちの祝福花へ水をやった。
夜明け、花は深い青に染まった。
それはユルハの色ではない。
ミレイアの髪飾りと同じ青だった。
セイダンは花を見て、剣を置いた。
「婚礼は予定どおり行う。私はあなたへ誓った」
「誓いと幸せが違うなら、どちらを守るの」
「恩を忘れる者にはなれない」
「私は恩返しとして愛されるために、あなたの家を助けたのではないよ」
ユルハは笑い、祝福花を切った。
切られた花を南の風へ放せば、色に選ばれた相手のもとへ届く。
「やめてくれ」
「受け取るかどうかは、ミレイアが決める。あなたも、自分で選んで」
「ユルハはどうなる」
「泣く。たくさん。それから、恩ではない恋を待つ」
花は青い鳥のように風へ舞った。
翌朝、セイダンは旅支度をして庭へ来た。
「行ってきます」
「帰ってこなくていいよ」
「そんな顔で言うな」
「どんな顔?」
「幸せを祈る顔」
ユルハはもっと明るく笑った。
「では成功。花占師だから」
彼が門を出るまで手を振った。
姿が消えた途端、膝から力が抜けた。
土へ落ちた涙を、誰にも見られないよう袖で拭いた。
秋、南から二人の婚礼を知らせる花が届いた。
青と金が混じった、見たことのない色だった。
ユルハはその花を店のいちばん明るい窓へ飾った。
自分の祝福花には、彼女の色は一枚もなかった。
それでも、愛する人を借り物の誓いから解き放った手だけは、花を育ててきたどの仕事より正しかったと思った。