神の予言は解除可能な罠でした
罠解除士シルカは、王宮で鼠捕りを外す係だった。
迷宮では床罠を見つけても報酬に数えられず、戦闘が終われば「宝箱を開けるだけの手」と呼ばれた。やがて勇者隊から追放され、今は厨房裏のばね箱を直している。
彼女の技能説明は、あまりに地味だった。
【職業技能《罠解除》:設置された罠一つの作動条件と効果を読み取り、無力化する。】
王の即位式の日、広場へ千人の平民が集められた。
新王は反乱を恐れ、全員の首へ赤い輪を浮かべていた。神殿が授けた《服従の予言》である。
――王へ逆らう意思を抱いた者の家族は、その場で死ぬ。
予言だから解除不能。大神官はそう宣言した。兵士でさえ家族を人質に取られ、暴君の戴冠を黙って見ている。
シルカは柱の陰から赤い輪を見た。
作動条件がある。
逆らう意思。
効果がある。
家族の死。
そして、即位式の前夜に大神官が設置した。
床から針が出るか、神の言葉が運命を刺すか。その違いしかない。
「それ、予言じゃありません」
広場へ出ると、新王は笑った。
「鼠捕り女が神託を語るか」
「罠の名前を豪華にしただけです」
シルカは最も近くにいた母親の赤い輪へ指を触れた。視界に、複雑な術式ではなく見慣れた構造が現れる。踏み板は反抗心。ばねは血縁魔法。刃は即死呪詛。そして中央に、設置者である大神官の署名。
彼女は一番小さな留め金だけを外した。
甲高い音が広場中で連なり、千の赤い輪が同時に砕ける。作動条件を失った呪いは、効果へ届かない。
最初に剣を抜いたのは、王の親衛隊長だった。次に兵士たちが続く。家族を殺される恐れのなくなった民衆が、戴冠台を取り囲んだ。
新王は玉座の後ろへ逃げたが、そこにはシルカが昨夜外さず残しておいた、本物の鼠捕りがあった。
王の足首で、ばねが鳴った。
大神官は神罰だと叫んだが、赤い輪を失った兵士たちはもう怯えなかった。厨房の女たちは鍋を持ち、厩番は熊手を構え、昨日まで声を潜めていた者たちが戴冠台へ上がる。シルカは鼠捕りのばねを踏まないよう、王へ逃げ道を一つだけ残した。牢へ続く道だった。
【職業《罠解除士》が上位職《因果解除卿》へ書き換わりました。】