私は黄色い仕切り棒です
私は、スーパーのレジ台に置かれた黄色い仕切り棒だ。
前の客と後ろの客の商品を分けるためにいる。牛乳は前、パンは後。誰の暮らしがどこから始まるか、私は毎日、細い体で線を引く。
十年前の夕方、買い物籠を山盛りにした女性の後ろへ、十二歳くらいの少年が並んだ。
少年が持っていたのは、小さなプリンと数字の「七」のろうそくだけだった。何度も時計を見ている。
女性は私を自分の商品の後ろへ置きかけ、少年の手元を見た。
「それだけなら、先にどうぞ」
少年は首を振った。
「妹の面会が六時までだけど、順番なので」
「なおさら先」
女性は私を持ち上げ、自分の商品と少年の商品を分けるのではなく、自分の順番を後ろへ動かすために置いた。
少年は会計を済ませ、プリンを崩さないよう胸へ抱いて走った。
翌月、少年は退院した妹と店へ来た。妹は店員へ、小さな紙の花を預けた。
「先にしてくれた人に渡してください」
女性とは会えなかった。紙の花はしばらく私の横へ飾られ、色が薄くなるまで、たくさんの客の順番を見ていた。
私は商品を分ける道具だ。
けれどあの日、人間は私を使って、順番の境目を動かした。
それから十年が過ぎた。
レジ台は新しくなり、店員も客も替わった。私は端が少し欠けたが、まだ同じ場所にいる。
ある夜、大きな買い物籠を持つ青年が私を手に取った。その顔に、昔の少年の面影があった。
彼の後ろには、看護師の制服を着た女性が立っていた。手にはおにぎり一つ。時計を見ながら、何度も病院の方向へ顔を向けている。
青年は言った。
「それだけなら、先にどうぞ」
「でも、たくさん買って待っていたでしょう」
「妹が入院していたころ、同じことをしてもらったんです」
青年は私を、自分の商品の手前へ置いた。
看護師は礼を言い、会計を終えると夜の病院へ走っていった。
青年の籠には、プリンが二つ入っていた。今日は妹と食べるのかもしれない。
私は誰かと誰かを分けるために作られた。
それでも人間は、ときどき境目を少しずらし、知らない人の時間を先へ通す。
そのたび私は、仕切り棒でありながら、線を引くより、線を越える役に立てた気がする。