空気清浄機の青い輪
空気清浄機の青い輪は、部屋がきれいだと言い張っていた。
久住は床へ座り、ノートパソコンに届いた不採用通知を閉じられずにいた。画面の白さが頬へ当たり、その横で青い輪が一定に光っている。埃も匂いも少ない。けれど胸の中だけは、何度換気しても濁ったままだった。
送風口の羽根が回る。すう、と吸い込み、ふう、と吐き出す。カーテンはほとんど動かない。窓には細い雨が当たり、粒の数だけが増えていった。
応募した会社は、今の職場より少しだけ遠く、少しだけ給料が高かった。仕事内容を読むたび、自分なら変われる気がした。不採用の一文は丁寧で、責める場所がどこにもない。
久住がメールをもう一度開いたとき、壁の向こうで誰かがくしゃみをした。
一度。少し間を置いて、もう一度。
そのあと、隣室の空気清浄機らしい音が強くなった。低い送風が壁越しに重なり、久住の機械も何かを検知したように回転を一段上げた。青い輪は変わらないまま、風だけが少し大きくなる。
隣人とは、宅配ボックスの前で二度すれ違ったことがあるだけだった。くしゃみを心配するほどの関係ではない。向こうも久住が不採用通知を見ているとは知らない。それでも二つの部屋で、同じような機械が夜の空気を吸っていた。
青い輪は、人生が整っている印ではない。ただセンサーが今の空気をそう判定しただけだ。久住はその単純さを少し羨ましく思い、同時に、胸の濁りまで数値にされないことへわずかに安堵した。
しばらくして、隣の送風は弱くなった。こちらの回転もゆっくり戻る。すう、ふう。すう、ふう。
久住はメールを「転職」のフォルダへ移した。削除はしなかった。自分が一度そこへ行こうとした記録まで、今夜なくす必要はないと思った。
ノートパソコンを閉じると、部屋の明かりは青い輪だけになった。久住は空気清浄機を睡眠モードへ切り替えた。回転音が低くなり、雨の細さが聞こえる。
通知には「総合的に判断し」と書かれていた。総合の中身を夜中に推測しても、久住の知らない条件ばかり増えていく。青い輪が測れるのは、この部屋の小さな粒子だけだ。測れないものまで数値にしようとする癖を、今夜は機械へ返してしまいたかった。
きれいにならないものを、夜中じゅう吸い込み続けなくてもいい。濁りが残ったままでも、朝まではこの空気で息をしていける。久住は青い輪へ背を向け、一人分の布団へ横になった。