空艇甲板の風圧試験

王国空挺隊の採用試験は、高度三千メートルの甲板で行われた。

整備士ピノクは命綱を結ぶ手さえ震えている。彼は飛行核の音を聞き分ける天才だったが、戦闘適性は皆無だった。護衛候補のユズリハがその前へ立つと、艦長は露骨に顔をしかめた。

「盾も翼膜も持たず、何で守るつもりだ」

「立って、です」

ピノクは昨夜、飛行核の第三弁に髪ほどの亀裂を見つけていた。報告書を出したが、艦長は地方工房出身の若造だと破り捨てた。ユズリハはその紙片を拾い集め、整備記録へ貼り直した。彼を守ることは一人をかばうだけではない。この船に乗る百二十人を守ることだった。

試験は風圧砲を一発受け、仲間を甲板から落とさなければ合格。だが艦長は、ユズリハが地方出身だという理由だけで砲圧を実戦値に上げた。

ほかの候補生は甲板の環へ鎖を三重に巻き、自分だけが飛ばされないよう固定した。ユズリハは命綱を一本も取らない。固定されれば、砲口とピノクの間へ入り直せないからだ。ピノクが青ざめて袖をつかむと、彼女は『工具だけ離すな』と笑った。

発射。

空気の塊が爆ぜ、白煙と木片が甲板を走った。手すりが曲がり、予備の樽が雲海へ吸い込まれる。艦長は合格印を伏せようとし、ユズリハの髪に挿された一本の簪を見た。

飾りの細い鎖が、揺れていない。

あの風の中で、髪どころか鎖一つ動かないのはおかしい。煙が流れる。ユズリハは両足を揃え、右手だけを横へ伸ばした同じ姿勢で立っていた。背後のピノクは命綱を結び終え、「飛行核、三番弁に雑音があります」と報告している。

艦長は指摘を無視した。

「固定術だな。甲板ごと吹き飛ばせば済む!」

彼は主砲の安全栓を抜いた。敵艦の船腹を破る《天墜圧》が、至近距離でユズリハへ向く。砲手たちが青ざめても、艦長は発射索を引いた。

轟音。甲板中央が煙に消える。

それでもユズリハは同じ場所に立ち、ピノクの工具箱まで足元に揃っていた。先に異常を理解したのは砲身だった。受け止められた圧力が逃げ場を失い、逆流して金属を内側から膨らませる。

次の瞬間、風圧砲は砲口から真っ二つに砕けた。