窓側の四人席
町の小さな食堂には、毎月最後の金曜日、同じ家族が来た。
父は焼き魚定食。
母は日替わり。
姉は麺類。
弟は、毎回メニューを迷った末に唐揚げ。
店主は注文を覚えたが、家族は必ず口頭で頼んだ。
「今月は変えるかもしれないから」
変えたことはほとんどなかった。
四人は静かな客ではない。
父は娘の髪色へ口を出し、母は息子の食べ方を注意し、姉は父の昔話を途中で止め、弟は全員の皿から一口ずつ盗んだ。
それでも食べ終わるころには、誰かが次の予約をした。
「来月も、窓側で」
年月が過ぎた。
姉が進学で町を出ると、三人になった。けれど水は四つ置いた。
「今日は来ませんよ」
母が言うと、父は、
「分かってる」
と答えた。
半年後、姉は大きな鞄を持って戻った。就職試験に落ち、家族へ話すためだった。
食堂の窓側で、父は説教を始め、母は止め、弟は姉の唐揚げを一個取った。
「私、麺なんだけど」
「今日は落ち込んでるから唐揚げだと思った」
姉は笑って、泣いた。
弟が就職すると、今度は弟が来ない月が増えた。
父が退職した日。
母が手術の結果を報告した日。
姉が結婚相手を連れてきた日。
家族は、祝う日にも困った日にも同じ席へ座った。
ある冬、店主は閉店を決めた。
「もう年だから」
最後の営業日、家族は六人で来た。姉の夫と、弟の幼い子どもが増えていた。
「四人席ですが」
店主が言うと、父は笑った。
「この家族、昔から狭いところへ無理に座るんです」
隣の卓をつなぎ、全員でいつもの注文をした。
食後、母が店主へ言った。
「ここで、ずいぶん大事な話をしました」
「内容は何も覚えてませんよ」
「それがありがたいの」
店主が覚えているのは、注文と、皿が空になるころの笑い声だけだった。
家族は記念写真を撮った。
誰かが目を閉じ、子どもは机の下へ潜り、父の焼き魚は半分食べられていた。
店は閉じた。
次の月、家族は姉の家へ集まり、窓に近い場所へ食卓を置いた。
父は焼き魚、母は残り物、姉は麺、弟は唐揚げを用意した。
「注文、変わらないね」
笑いながら、また次の金曜日を決めた。
温かかったのは食堂だけではない。
毎月ここへ来ようと言い続けた、家族の会話のほうだった。