紫色の予定表
共有カレンダーを開くと、佐保の来月は紫色で埋まっていた。
月曜、母の通院。水曜、買い物。金曜、デイサービスの送り出し。日曜、父の休息日。妹が家族用カレンダーへ追加した予定は、すべて佐保の名前になっている。
佐保は夕食のパスタを茹でながら、妹へ電話した。
「これ、私に確認した?」
『だって在宅勤務でしょ。私は子どもの送迎があるし』
「在宅勤務は休みじゃない」
『お姉ちゃんは一人なんだから、動きやすいじゃない』
鍋の湯が吹きこぼれた。佐保は火を弱め、カレンダーを見直す。紫は母の好きな色だった。
しかも予定には開始時刻だけがあり、終了時刻がない。母を病院へ送り、そのまま買い物と夕食まで頼まれる余白が、白ではなく紫の中に隠れていた。佐保は一件ずつ詳細を開き、妹が書いた〈終日〉の文字を確かめた。母が予定帳をつけていたころ、佐保の習い事にも紫の丸がつき、変更を頼むと「家族の予定を乱さないで」と言われた。
今度は妹の指で、同じ色が置かれている。
「私ができるのは、第二水曜の通院だけ。ほかは削除する」
『じゃあ誰がやるの?』
「今から一緒に決める。私を先に埋めてから考えるのはやめて」
佐保は予定を一件ずつ消した。画面に白い日が戻るたび、妹の息が荒くなる。最後に第二水曜だけを残し、色を紫から青へ変えた。
『私だって押しつけたいわけじゃない』
妹の声が少し低くなった。
「分かってる。だから、二人で背負い合うんじゃなくて、外へ頼もう」
二人はその電話で、買い物代行と送迎サービスへ問い合わせる項目を作った。父の休息日は、父自身がショートステイの見学を申し込むことになった。妹は金曜の送り出しを月二回だけ担当すると入力した。
茹ですぎたパスタを皿へ盛るころ、来月の画面には白、青、緑が混ざっていた。完璧な分担ではない。空欄も多い。
妹が最後に言った。
『お姉ちゃん、じゃなくて、佐保の予定を先に聞くようにする』
佐保は「うん」と答え、通話を切った。
空欄は誰かの怠慢ではない。まだ家族だけで埋めないと決めた場所だった。