終末予報は快晴

百々瀬澄河が暮らす空は、十二歳まで一度も曇ったことがなかった。学習世界〈パレット〉では、子どもの情緒を安定させるため、天気は常に二十二度の快晴に設定されていた。

父は現実側の保護者で、週末だけ窓の向こうに現れた。

「本物の雨は冷たい?」

「冷たいし、靴下が濡れるし、だいたい面倒だ」

「でも見たい」

「卒業したらな」

卒業まで三か月という日、教師がサーバー停止を告げた。運営会社が破産し、子どもたちは別の学習環境へ転送される。ただし住民として育った澄河たちの記憶は互換性がなく、初期化されるという。

父は毎晩接続した。

「向こうでまた会える。お前は覚えていなくても、俺が覚えている」

それは慰めにならなかった。自分だけが父を知らない世界で、同じ笑顔を向けられることが恐ろしかった。

父は現実の仕事を休めず、約束した卒業旅行の予約もまだ取っていなかった。澄河は、未来がある者は何でも先延ばしにできるのだと思った。自分たちには明後日がない。ならば、欲しかったものを今日へ引きずり出すしかない。

停止前夜、澄河は校舎の管理室へ忍び込み、気象設定を開いた。選べるのは快晴だけではなかった。霧、雪、雷雨、台風。彼は〈豪雨〉を押した。

警報が鳴り、空が割れた。生徒たちは泣きながら外へ飛び出した。雨は頬を叩き、制服を重くし、道路を川にした。澄河は笑った。父の言った通り、靴下は最悪だった。

画面の向こうで父も泣いていた。

「卒業まで待てなくて、ごめん」

「謝るのは俺だ。見せるつもりで、ずっと先延ばしにした」

停止時刻、澄河は両手で雨を受けた。転送後、彼は何も覚えていなかった。

それでも新しい世界で、快晴の日になると理由もなく落ち着かなかった。ある日、散水装置の故障で雨粒が降ると、澄河は濡れた靴下を見て笑った。

迎えに来た男が、泣きそうな顔で傘を差し出した。

澄河はその男を知らなかった。けれど傘へ入る前に、なぜか言えた。

「本物は、もっと面倒なんでしょう」

父は、何度もうなずいた。