絵日記の青い丸

小学生の絵日記には、夜になると青い丸が一つ現れた。

丸で囲まれた物は、翌日必ず少し壊れる。

傘。

鉛筆削り。

植木鉢。

母は最初、偶然だと思った。

けれど丸の付いた傘を持たせなければ、別の傘の骨が曲がる。植木鉢を棚から下ろせば、床で縁が欠ける。

壊れること自体は避けられないらしい。

母は被害を小さくすることにした。

古い物へ替え、壊れても怪我をしない場所へ移す。

子どもも面白がり、

「明日は何かな」

と日記を開いた。

ある夜、青い丸は家族写真を囲んでいた。

亡くなった父と、まだ幼い子どもと、母が海辺で笑っている一枚だった。

母は写真を額から外し、布で包み、鍵のかかる引き出しへ入れた。

翌朝、子どもが探した。

「学校で家族の写真を見せるんだ」

「別のにして」

「これがいい」

「壊れるから駄目」

子どもは黙って学校へ行った。

夕方、引き出しは開いていた。

写真が床に落ち、中央から二つに裂けている。

母は声を荒らげた。

「どうして勝手に触ったの!」

子どもは、裂けた写真の父の側を握っていた。

「お父さんがいない家族って、何を見せればいいか分からなかった」

母は言葉を失った。

写真を守ることばかり考え、子どもが何を壊れたと思っているか聞かなかった。

二人で写真を机へ並べた。

裂け目は、父と母子の間をまっすぐ通っている。

子どもが、

「もう三人じゃないね」

と言った。

母は接着テープを持ってきたが、すぐ貼らなかった。

「三人だったことは、なくならない」

「今は?」

「今は二人。お父さんの写真も一緒に持ってる二人」

学校へは、裂けたままの写真を持っていった。

子どもは発表で、父が亡くなったこと、母と二人で暮らしていること、写真が昨日破れたことを話した。

同級生の一人が、

「うちも三人だった」

と手を挙げた。

帰宅後、親子は写真を透明な板へ挟んだ。

裂け目は消さず、その間へ現在の二人の小さな写真を一枚置いた。

青い丸は翌晩から現れなくなった。

壊れる物がなくなったのではない。

壊れた形を隠さず、今の家族として持てるようになったからかもしれなかった。