花壇の向こうの車輪
町内会の共同花壇へ、砕いた石膏ボードと壁紙の袋が捨てられた。
清掃当番の石蕗森真緒璃が片づけていると、隣家の蓼科野豪紀が腕を組んだ。
「古い家を直してる石蕗森さんちのごみじゃないの? 業者を呼べないなら自分で持ち帰れよ」
真緒璃の家は工事などしていない。それでも蓼科野は町内会の掲示板へ写真を貼り、〈貧乏改装の残骸〉と書いた。
その晩、また袋が増えた。
翌朝、町内会長と土地の大家を交えた話し合いが開かれた。蓼科野は、真緒璃が夜中に一輪車で運んだのを見たと証言した。
真緒璃は一枚の地図を広げた。
花壇の向かいは宅配会社の車庫で、出入口の安全確認用カメラが二十四時間、道路を映している。映像には午前一時、蓼科野の白い軽トラックが止まり、荷台から袋を下ろす姿が記録されていた。
ナンバーも顔も鮮明だった。
蓼科野は、知人へ車を貸したと主張した。
宅配会社の車両にもドライブレコーダーがある。すれ違った際、運転席の蓼科野が「処分場より花壇のほうが早い」と通話する声まで拾われていた。
さらに軽トラックは、蓼科野が無許可で請け負った内装工事の現場から直行していた。壁紙の裏には、その現場名が印刷された管理シールが残る。
町内会長は無断投棄を警察と自治体へ相談すると告げた。
大家は別の書類を出した。蓼科野は賃貸の戸建てを事務所として使い、廃材を庭へ積み上げ、過去にも二度注意されていた。住居以外の無断事業利用と近隣への反復的迷惑行為により、契約を解除するという。
蓼科野は真緒璃へ迫った。
「町内の話だろ。警察まで呼ぶな。俺が花壇を直せば済む」
真緒璃は、割れた煉瓦の下から掘り出した小さな苗を植え直した。
「直すのは花壇だけでは足りません。あなたが壊した信用は、ここへ置いていけませんから」
自治体職員が廃棄物へ証拠札を付け、大家が明渡期限を読み上げる。
映像の白い車輪が花壇前で止まった時刻と、契約解除通知の時刻が記録された瞬間、真緒璃へ押しつけた廃材は、蓼科野自身の家と仕事を追い出す荷物になった。