花嫁は窓を見ない

夫が亡くなってから、妻は結婚写真を伏せていた。

若い二人が教会の窓辺に立ち、夫だけがカメラを見ず、外を見ている。

妻は昔から、その視線が気に入らなかった。

式の日でさえ、自分ではない何かを見ていたように思えるからだ。

一周忌に届いた白い花を写真の前へ置いた。

三日後、最初の花びらが落ちたとき、写真の中の夫が話した。

「そっちじゃない」

妻は花瓶を倒しかけた。

夫は、現実の花が一枚散るたび、一言だけ話した。

「何が」

次の花びらが落ちる。

「窓」

「窓を見てたでしょう」

「君を」

「私は隣にいる」

「ガラスに映ってた」

妻は写真を額から外し、角度を変えた。

教会の窓には、白いドレスの背中が小さく反射していた。

夫は妻の正面ではなく、窓に映る姿を見ている。

「どうして直接見ないの」

花が一枚落ちた。

「泣くから」

「誰が」

「私が」

若い夫は、妻が両親のいない式で笑い続けていたことを知っていた。

正面から見れば、自分まで泣き、妻を泣かせると思ったらしい。

だから窓の中の妻を見ていた。

妻は腹が立った。

そんなことを、なぜ生きているうちに言わなかったのか。

夫は照れ屋で、説明を省き、いつも行動だけで済ませた。

妻はその行動を、何度も悪い意味へ読み違えた。

最後の花びらが落ちる前、妻は尋ねた。

「今も私を見てる?」

白い花が揺れた。

けれど花びらは落ちなかった。

夫も答えない。

妻は一晩、花瓶の前で待った。

朝になり、最後の一枚が静かに机へ落ちた。

「窓を見て」

写真の夫は元の姿へ戻った。

妻がカーテンを開けると、朝の窓に現在の自分が映った。

白髪が増え、目元に皺がある。

その後ろへ、結婚写真の夫が重なるように見えた。

妻は写真を伏せるのをやめ、窓のそばへ掛けた。

来客には、夫がなぜ外を見ているのか説明しなかった。

見る角度によっては、ただよそ見をしている男にしか見えない。

それでも妻が窓を拭くたび、若い夫と年を取った自分が同じガラスに映る。

直接見つめ合わなかった二人は、長い時間を回り道して、ようやく同じ方向を見ていた。