蛍光灯の下の海

青い掛け布団カバーが、丸い窓の中で波になっていた。

 持ち上がり、折れ、白い泡へ沈む。また持ち上がり、今度は裏側の淡い色を見せる。

 侑子は洗濯機の前に立ち、海を見ているつもりになった。

 午前一時半。コインランドリーの蛍光灯は、深海には明るすぎた。天井の空調は低く鳴り、壁際の乾燥機が一定の速さで回っている。雨はやんだばかりで、窓ガラスを伝う雫だけが遅れて落ちていた。

 最近、ベッドへ入るのが苦手だった。昼間は眠いのに、夜になると布団の白さが広すぎる。枕元の時計を裏返しても、秒の進み方だけは頭の中に残った。

 眠る前には一日の続きを考え、目を閉じると明日の失敗を先に思い浮かべる。青いカバーは何日も外したまま、布団には白い中身だけがむき出しになっていた。今夜、それを理由に部屋を出た。

 店の奥では、一人の女性が白いシーツを畳んでいた。

 角と角を合わせ、腕を広げ、半分にする。もう一度、半分にする。布は空気をはらんで一瞬だけ帆になり、すぐ細い長方形へ収まる。

 女性は侑子を見なかった。侑子も声をかけなかった。

 ただ、シーツを広げるたび、洗剤の匂いを含んだ風がこちらまで届いた。どこかの家で誰かが眠り、朝になればこの白い布を使う。その単純な予定が、店内を一度ずつ横切った。

 女性は畳んだシーツを籠に重ね、最後に小さな枕カバーを一枚、上へ載せた。角が少しずれたのを指先で直し、それ以上は確かめずに出ていった。

 入口のベル。

 濡れた道路を踏む靴音。

 また機械だけの店になる。

 洗濯が終わると、青い布は窓へ貼りつき、海ではなくただの布に戻っていた。水を含んで重く、片腕では持ち上がらない。侑子は両手で抱え、足元へ落とさないよう乾燥機まで運んだ。侑子は乾燥機へ移し、十五分だけ回した。

 完全には乾かさず、家で掛けることにした。

 部屋へ戻り、布団を青いカバーへ入れる。角を探し、紐を結び、何度か大きく振った。広がった青はベッド一台ぶんで、海ほど遠くなかった。

 侑子は灯りを消した。

 眠れるかは分からない。それでも今夜は、この狭い青の上で横になっていられそうだった。