袖丈を測る午後
夏服の袖が、去年より明らかに短かった。
腕を上げると脇が引きつり、ボタンの間が少し開く。朝から誰にも気づかれないよう、私は肘を体へつけて過ごした。
放課後、被服室で同じクラスの手芸部員に呼び止められた。
「動き、変」
「暑いから」
「暑い人はもっと腕を広げる」
見抜かれた。
事情を話すと、彼女はメジャーを取り出した。
「測るよ」
「ここで?」
「服が悪いのに、体が悪いみたいな顔しないで」
その一言で、抵抗する気がなくなった。
肩幅、胸囲、袖丈。数字を読み上げるたび、去年の自分から数センチずつ離れていく。
「成長期、継続中」
「もう高校生なのに」
「高校生だからでしょ」
彼女は予備の縫い代をほどき、袖の裏へ別布を足した。ミシンの音が、誰もいない校舎に響く。
私は鏡の前で、体の変化を隠すように背中を丸めていた。
「最近、写真も嫌なんだ」
「去年の服を基準にしたら、誰でも嫌になる」
彼女は糸を切った。
「今の体に服を合わせる。逆じゃない」
直したシャツを着ると、腕が上がった。窓を開ける動作さえ楽だった。
「すごい」
「仮縫い。家で洗って、もう一回見る」
彼女は自分の進路希望調査を見せた。服飾の専門学校の名前が書いてあった。
「親には、趣味でいいって言われてる」
「でも行くの?」
「服のほうを人に合わせたいから」
さっきの言葉が、彼女自身の決意でもあったと知った。
翌日、私は腕を上げて黒板を消した。誰も気にしていない。それが嬉しかった。
昼休み、彼女の机へ進路希望調査を返しに行った。
「昨日のシャツ、いくら?」
「出世払い」
「いつ出世するか分からないよ」
「私も」
二人で笑った。
衣替えの日、私は去年より大きくなった体を初めて隠さずに歩いた。袖の内側には、彼女が足した白い布が細く続いていた。成長した分だけ、未来へ足された余白みたいだった。
夏服を脱ぐ季節、直した布は肌になじんでいた。私はもう鏡の前で肩を縮めず、彼女は願書の封筒を同じ机で縫うように丁寧に閉じた。