証人欄は決裁欄ではない

【兄からの質問 一】

 相手には前の結婚で生まれた子がいる。

 お前は本当に、その子の親になる覚悟があるのか。

【妹からの回答】

 親になるとは約束していない。

 その子の母親になる人は、すでにいる。

 私は父親の結婚相手として、どんな関係を作れるか本人と話している。

【兄からの質問 二】

 相手の母親も同居する予定と聞いた。

 介護まで背負うつもりか。

【妹からの回答】

 同居は未定。

 介護が必要になった場合は、相手と兄弟、専門職で分担する。

 私が無償で引き受ける前提なら結婚しない。

 婚姻届の証人を頼むと、兄は署名の代わりに質問票を送ってきた。

 妹は腹を立てながらも、一つずつ答えた。

【兄からの質問 三】

 お前は昔から、家族の世話を断れない。

 今回も「自分がやれば丸く収まる」と思っていないか。

 その質問だけ、三日返せなかった。

 両親の入院中、兄は遠方にいて、妹が手続きも通院も担った。兄は金を送り、「助かった」と言った。妹は「大丈夫」と返した。

 結婚相手に出会ったのは、そのころだった。彼は妹の世話好きなところを褒めた。それがうれしくて、怖くもあった。

【妹からの回答】

 思ってしまうことはある。

 だから結婚前に、家事、生活費、子どもとの距離、親の支援について文書にした。

 破ったら話し合う。話し合えなければ別居する。

 でも兄さんにも聞きたい。

 私が断れなくなった原因の一部は、誰?

 翌週、兄が家へ来た。

「質問票、意地悪だった」

「心配だから、で済ませないで」

「両親のことを任せたまま、お前がまた誰かの世話をするのが怖かった。罪悪感を、相手への反対に変えた」

 兄は婚姻届を開いた。

「相手に会わせてくれ。許可するためじゃなく、謝ることと頼むことがある」

 顔合わせの日、兄は結婚相手へ言った。

「妹を幸せにしてください、とは言いません。妹の幸せをあなたが決めないでください」

 相手は頷いた。

「僕からも同じことを頼みます。家族だからと、彼女へ全部任せないでください」

 妹は二人を睨んだ。

「本人の前で同盟を組まないで」

 兄は笑い、証人欄へ署名した。

「これは賛成の印?」

「違う。お前が考えて選んだことを見届けた印」

 証人欄は決裁欄ではない。

 家族が反対も不安も隠さず、それでも最後の選択を本人へ返した証拠になった。