貸与拳銃第六号

貸与拳銃第六号は、十二年間、一発も撃っていないことになっていた。

鳥越奏監察官は、射撃場の点検台に拳銃を固定し、井沢口明臣教官へ空の薬莢を見せた。昨夜、古い庁舎倉庫から見つかったものだ。十二年前、暴力団の情報提供者が車内で射殺された未解決事件。その現場薬莢と、底部の打撃痕が一致していた。

「第六号は事件当時、警察学校の保管庫にあった」

井沢口は台帳を指した。貸出欄は空白。清掃記録も、年二回の試射記録も整っている。

「なら、なぜ撃針が交換されているんです」

奏は顕微鏡写真を置いた。台帳には交換歴がない。銃身だけでなく撃針まで替えれば、発射痕の照合は難しくなる。

井沢口の頬から血の気が引いた。

「私が替えた。命令だった」

「誰の」

「当時の教養課長。今の県警本部長だ」

井沢口は、事件の夜に本部長の公用車が学校裏門へ入った記録も見たという。翌朝、その守衛日誌だけが雨で濡れ、判読不能として廃棄された。

射撃場の換気扇が低くうなった。

井沢口は、事件の翌朝に第六号を分解し、訓練廃品の部品と交換したという。理由は聞かなかった。代わりに教官への昇任を約束された。十二年後の今、退職前点検で不一致を見つけた奏へ、上司は「部品管理の瑕疵」として処理するよう命じていた。

「あなたが単独で持ち出したと書けば、銃器管理違反で終わります」

「そうしろと言われている」

「本部長を守るために?」

「県警を守るためだ。貸与銃が殺人に使われたと公表すれば、過去の鑑定も拳銃庫も全部疑われる」

井沢口は拳銃を見た。

「正しい報告を出しても、犯人はもう分からん。残るのは組織が壊れた事実だけだ」

奏は保管箱の封印紙を剥がした。部品管理の報告書ではなく、未解決事件の再鑑定申請書を入れる。第六号、薬莢、交換前後の写真、井沢口の供述録音。

廊下で足音が近づいた。

奏は箱の蓋を閉め、封印欄に自分の監察官番号を記した。最後に、宛先ラベルを県警本部長室から地方検察庁へ貼り替えた。