賞金首はパンを焼く

 乾いた国境町で、賞金稼ぎのエルダ・ホークは一軒のパン屋へ入った。

「薊野バルトはいるか」

「私ですが」

 粉まみれの店主が手を挙げた。手配書と同じ名だ。年齢も背格好も近い。

「三日前の夜、どこにいた」

「発酵室です」

「密室で何を?」

「生地を膨らませていた」

「仲間は何人だ」

「酵母なら二億ほど」

「大所帯だな」

 店主は首をかしげた。エルダはカウンターへ手配書を置いた。

「王都の金庫を破ったな」

「金庫? うちは石窯です」

「硬い扉をこじ開けたと聞いた」

「昨日、窯の蝶番が固くて。麺棒を差し込みました」

「凶器まで自白するとは」

「麺棒が?」

 会話は噛み合わないまま、妙に証拠だけがそろった。

「奪った金はどこだ」

「金色なら、棚に並んでます」

 焼きたての丸パンが二十個。確かに金色だった。

「共犯者は」

「妻が会計、娘が成形です」

「一家ぐるみか」

「家族経営です」

「逃走用の馬車もあるな」

「配達用です。朝六時に出ます」

 エルダはついに手錠を出した。

「薊野バルト。王命により拘束する」

「パンが焦げるので、五分待ってください」

「その落ち着き、ただ者ではない」

 店主が窯を開けたとき、入口の鈴が鳴った。黒い外套の男が入ってくる。

「バルト、いつもの黒パンを――」

 男はエルダの手配書を見て止まった。そこに描かれた顔と、寸分違わない。

「薊野バルト?」

「人違いだ」

「名まで同じ?」

「偶然だ」

 男は踵を返した。店主が反射的に生地を投げる。粘った生地は男の足へ絡みつき、見事に転ばせた。

「逃走防止用の技か」とエルダ。

「フランスパン用です」

 捕らえた盗賊は、本当に薊野バルトだった。町の記録係が、同姓同名を理由に手配書へ職業を書き忘れていたのである。

 エルダは店主の手錠を外した。

「詫びに何か買う」

「黒パンなら、今の男が予約していました」

「では没収する」

 店主は捕縛祝いに、焼きたての丸パンを一つ包んだ。エルダは代金を払おうとしたが、「誤認逮捕のお詫びで結構」と押し返された。

 賞金は、パン代より高かった。