返品棚の一平方メートル

真壁直登がスーパーへ着くと、菓子売場の主任は空いた棚を指した。

「明朝までに新商品を三SKU入れて。競合はもう並べてる」

直登は地方菓子メーカーの営業だった。倉庫には在庫がある。注文を取れば月末の目標も超える。

だが、棚の下に返品用の段ボールが三箱積まれていた。先月入れた商品がほとんど開封されていない。

主任は「味が弱かった」と言った。

直登は箱から一袋取り、売場の値札を見た。商品は百二十円なのに、値札は百五十八円の別商品名になっている。棚替えの際、列が一つずれたのだ。客は高いと思って手を伸ばさず、レジでも読み取り価格との違いを指摘され、店員が商品ごと撤去していた。

直登はレジの訂正履歴も確認した。同じ時間帯に価格訂正が七件あり、担当者がそのたび売場へ走っていた。売れない商品が、店員の手まで奪っていたのだ。値札を直すだけでなく、棚替え日の朝に一度だけ読み取り確認をする手順を加えた。

「味ではありません。置き場所です」

主任の顔が赤くなった。直登は責めず、三SKUの発注書を一枚だけに減らした。

新商品は最も売れる一種類に絞り、フェースを二列確保する。残りの空間には、返品予定だった旧商品を正しい値札で戻す。二日間の販売数を見てから追加する。三種類を一度に並べれば棚は華やかだが、売れ方が分からないまま期限が来て、返品率だけが上がる。

「一種類じゃ、本部に弱く見える」

「三種類全部が残る方が弱く見えます」

直登は品出し担当者と棚番号を確認し、値札の写真を受注画面に添付する手順をその場で決めた。次回から納品数だけでなく、置かれた位置まで営業が確かめる。

主任は旧商品を一袋開け、試食した。

「これ、普通にうまいな」

明朝分は新商品一箱、旧商品二箱に決まった。注文額は当初の半分以下だった。

店を出る直前、直登の端末に倉庫から通知が来た。

〈別店舗より新商品三SKU、各十箱の緊急注文〉

彼は承認せず、店舗名と棚写真を送り返すよう依頼した。月末まで、あと六時間あった。