迷子札

「お母さんが来るまで、ここで待とうね」

青い制服の女の人は優しく笑い、私の手首に黄色い迷子札を巻いた。

おもちゃ売り場で母とはぐれ、泣いていた私を見つけてくれた人だ。胸には店の案内係らしい丸いバッジがある。連れていかれた迷子室には、絵本とぬいぐるみと小さなテレビがあった。

けれど、バッジには店の名前がなかった。虹の絵だけで、裏側は銀色のテープで留めてある。

黄色い札にも私の名前は書かれず、「A―17」という数字だけが印刷されていた。

「お名前、書かないの?」

「お母さんだけに分かる番号なの」

女の人はそう言い、母の髪型と上着の色を正しく言い当てた。見つけたとき近くで見ていたのだろうと思った。でも、母の鞄についていた赤い猫の飾りまで知っていた。

蓋の開いたりんごジュースを渡された。私は飲まずに机へ置いた。

テレビでは動物の映像が流れていた。画面の外から聞こえる店内放送は、同じ迷子案内を何度も繰り返す。呼ばれている子の服も年齢も、毎回同じだった。

女の人の靴は案内係のパンプスではなく、泥の付いた運動靴だった。制服の裾から、店では見たことのない迷彩柄のズボンも覗いた。

部屋には窓がない。ドアの向こうで、ごろごろと重い音が続いている。

「エスカレーター?」

「荷物を運んでる音よ」

母に電話してほしいと言うと、女の人はもう連絡したと答えた。私の母の番号を、私はまだ教えていなかった。

ぬいぐるみを抱くふりをして、机の下に落ちた札を拾った。赤い札には「B―09 受渡済」とある。

そのとき、床が大きく傾いた。絵本が滑り、壁へぶつかる。女の人は私を抱き寄せた。

「地震?」

「大丈夫。もうすぐ着くから」

ごろごろという音が止まり、ドアが開いた。

外にあったのは売り場ではなく、暗い倉庫の搬入口だった。部屋だと思っていた箱の下には車輪があり、壁の向こうにトラックの運転席が見えた。

女の人は虹のバッジを剥がし、待っていた男へ黄色い札を見せる。

「A―17、確保。母親はまだ店内で探しています」

手首のそれは、迷子を見つける札ではなかった。

見失わせた子を、間違えずに渡すための札だった。