追放斥候は円陣から動かない
ヒュロクを追放した理由を、勇者パーティーの隊長バーゼクは「臆病だから」と説明した。
魔物の攻撃が来るたび、斥候のくせに剣を抜かず、仲間の前で立ち止まる。しかも本人には傷一つつかない。役立たずが安全な場所を知っているだけだと、皆が信じた。
一月後、ギルドの公開模擬戦で二人は向かい合った。
ヒュロクの背後には、新しく組んだ薬師と荷運びの少女がいる。バーゼクは観客へ聞こえるように叫んだ。
「今度こそ、お前が仲間を盾にしていた証拠を見せてやる!」
初撃は炎槍だった。狙いはヒュロクの肩。槍は直進したはずなのに、彼の目前で傾き、円陣の外へ突き刺さった。
ヒュロクは腕を横へ伸ばした姿勢から動いていない。背後の二人も無傷だった。
バーゼクは自分の魔力制御を疑った。だが観客席の記録鏡には、炎槍が直前まで正しい軌道を進み、自ら避けた瞬間が映っている。
「小細工が使えないよう、全部焼く!」
彼は勇者剣を地面へ突き立て、《獄炎円葬》を発動した。円陣そのものを火柱へ変えるため、外へ逃げなければ助からない。
爆炎と煙が三人を覆った。
煙が晴れると、ヒュロクは腕を伸ばした同じ姿勢で立っていた。薬師はその後ろで薬瓶の栓を押さえ、荷運びの少女は目を丸くしている。炎は三人の足元だけを島のように避けていた。
新しい薬師は、火柱の中でも一本も割れなかった瓶を掲げた。荷運びの少女の背負い袋には、救助用の包帯と水が詰まっている。二人は強くない。だからこそヒュロクは、彼女たちを勝たせるのではなく、必ず帰す仲間として選んだ。観客席から上がった拍手が、元勇者たちの沈黙を際立たせた。ギルド職員が過去の依頼記録を掲げる。ヒュロク在籍時の死亡者は零、追放後の初任務では三人が重傷。数字は、誰が誰を盾にしていたのかを容赦なく示した。
そこでバーゼクは、過去の遠征を思い出した。自分たちの服だけが濡れなかった豪雨。野営地だけを外した落石。背後から来た矢が、いつも不自然に木へ刺さったこと。
「まさか……俺たちまで避けさせていたのか」
「仲間だった間はね」
ヒュロクは腕を下ろした。
「追放された日に、君たちは俺の回避範囲から外れた」
勇者剣を握るバーゼクの足が、無意識に一歩退いた。