追放測量士と大地縫いの針
山腹に一本の亀裂を見つけた時、ナディアは領主へ避難を進言した。
返ってきたのは解雇状だった。
「祭りの前に不吉な噂を流した罪だ」
測量士の資格章を奪われた翌日、雨が降った。亀裂は村を見下ろす崖いっぱいに広がり、土砂がゆっくり動き始める。祭りの楽団は異変に気づかず演奏を続け、広場には子どもと老人が密集している。鐘を鳴らしても、集まった千人を逃がす時間はない。
ナディアは崖の下で、雨に滲む地図を握りしめた。弟も広場の楽団にいるのだ。欲しいのは力ではない。割れた地層を、あと半日だけでも止める道具。
視界へ緑の円環が現れた。
《条件達成:誰にも信じられない危険を正確に測った者》
《主人公専用排出枠〈測量士〉》
《一回限り。観測した問題に最適化されます》
引くと、掌に縫い針が一本落ちた。糸もなく、長さは小指ほど。
《大地縫いの針》
《地図上の二点を縫い合わせる》
領主は笑った。
「そんな玩具で山を止めるつもりか」
ナディアは地図の亀裂の両端へ針を通した。
紙が引き寄せられるのと同時に、崖が轟いた。離れていた岩盤同士が地中で噛み合い、亀裂が端から閉じていく。押し出された雨水は、彼女があらかじめ赤線で示していた無人の谷へ流れた。土砂は村の手前で左右に割れ、家一軒壊さず停止した。
ただ止めただけではない。地層の圧力も水の逃げ道も、測量図どおりに組み直されている。祭りの提灯は一つも消えなかった。
村人たちが歓声を上げる中、領主が資格章を差し出した。
「誤解だった。戻って山を管理せよ」
「山を管理する前に、危険を報告した者を追放する領主を替えるべきです」
村長たちは無言でうなずいた。資格章は受け取らず、ナディアは自分で新しい測量杭を打つ。今度は領主の許可ではなく、村の依頼で。
使い終えた針が地図の上で巨大な光柱へ変わった。
《超越級地形編集具〈世界縫合針〉》
《世界初実績:災害を止め、被害数を零に固定》
《専用権限保持者――測量士ナディア》