避難所運営記録_靴列係

避難所運営記録――靴列係

【発災一日目 午後九時】

市立北浜中学校体育館、避難者百三十六名。

入口に靴が集中。余震のたび、避難者が外へ出入りし、長靴と室内履きが混在。

転倒危険あり。

小学五年生・稲透晴名が、自主的に靴を壁沿いへ並べ始める。

担当者が「危ないから中へ」と声をかけると、本人は回答。

「おばあちゃんが、暗いと自分の靴を見つけられないから」

【午後九時三十分】

晴名、靴のかかとへ養生テープで番号を貼付。

同じ番号を避難者カードへ記入。

高齢者、妊婦、乳幼児連れの靴を出口近くへ配置。

通路幅、約一メートル確保。

作業参加者、当初一名。

十五分後、八名。

【発災二日目 午前二時十四分】

強い余震。

体育館内、一時避難。

停電により玄関は暗闇。

番号札と靴列のおかげで混乱少なく、全員が約四分で校庭へ移動。

晴名の祖母も、杖をついたまま自分の靴へ足を入れられた。

人的被害なし。

【午前六時】

晴名、靴列の乱れを直しているところを発見。

担当者が休むよう指示。

本人。

「夜はみんな急いだから。今度また急ぐとき、困らないように」

祖母が晴名の肩へ毛布をかけ、代わりに靴をそろえる。

その後、避難者が交代で担当。

係名を〈靴列係〉とする。

【発災三日目】

幼児が自分の番号を覚え、母親の長靴を探して持ってくる。

高齢男性が「自分は役に立てない」と話していたが、番号札を書く係へ参加。

文字が大きく読みやすいと好評。

【発災七日目】

自宅へ戻る人が増加。

退所者は、自分の靴を履いたあと、隣の一足を出口へ向けてから帰る習慣が自然に発生。

晴名の祖母が退所する際、最後に残った長靴一足をそろえた。

「誰のか知らないけど、帰る人のだから」

【学校再開後】

児童会より提案。

災害時だけでなく、日常から昇降口の靴をそろえる。

ただし美化運動ではなく、次に履く自分、隣で履く人、急いで避難する人のためと説明する。

【最終所見】

靴を並べても、地震は止められない。

失った家も戻らない。

しかし暗闇の中で、自分の一足がすぐ見つかることは、小さな安心になる。

避難所で最初に整えられたのは、靴ではなかった。

混乱した人々が、次の人の足元を気にかける順番だった。