針先の光で石王を伏せる
「針先ほどの明かりしか出せない? 夜道でも自分の靴が見えまい」
光騎士団の試験官は、タミラを無能と判定した。
【魔法:《一点灯》――視界内の一点へ、一瞬だけ蛍ほどの光を生む】
闇を払うには小さく、合図にも短すぎる。タミラは王宮地下の灯芯交換係へ回された。
地下では強い灯りほど鉱石へ反射し、目を痛める。タミラは一点だけを照らして芯の裂け目を探し、暗さに慣れた目が小さな光へ弱いことを毎晩見ていた。
その夜、石眼王が封印を破った。
一つ目の巨人が地下門から現れ、瞳に映した者を石へ変える。盾で隠れても、磨かれた床へ映った視線だけで足から固まった。光騎士団は反射鏡で目を焼こうとしたが、石眼王の瞳は外から来る光をすべて跳ね返した。
剣聖ウルバスも胸まで石になった。
「目を閉じさせろ!」
兵が矢を射る。しかし巨人の透明な瞼は水晶より硬く、眼球を覆わない。石眼王はまばたきせず、王の避難路へ顔を向けた。
タミラは灯芯を抱えたまま、巨大な黒い瞳を見た。
外から光を入れれば反射される。だが《一点灯》は光線ではない。見えている一点そのものを、ほんの一瞬だけ光らせる。
「剣聖。瞼が下りたら、右へ三歩です」
ウルバスは石の胸で浅く息をした。
タミラは瞳の中央、最も暗い点を指定する。
《一点灯》。
蛍ほどの光が、石眼王の眼球の表面ではなく、黒い瞳孔の奥で生まれた。
暗闇に慣れ切った巨人には、針先の光でも太陽だった。初めて瞼が閉じ、石化の視線が途切れる。ウルバスの身体から灰色が剥がれ、止まっていた三歩を一息で踏み込んだ。
聖剣が閉じた瞼の継ぎ目から入り、瞳の核を断つ。
石眼王は膝をつき、地下門の前で砕けた。石像になっていた騎士たちも、次々に色を取り戻す。
試験官が「蛍の光だ」と嘲りを続けた。
ウルバスは聖剣の切っ先で、その無能印だけを紙から削った。
「闇を全部照らす必要はなかった」
剣聖は光騎士章をタミラへ差し出す。
「敵が最も暗いと思っている一点を照らせる者を、今日から先導役と呼ぶ」