銀の仮面に触れないで
仮面舞踏会の入口で、レティアは銀の半面を押さえた。
留め具が耳の後ろの傷へ当たり、じくじく痛む。だが外せば、幼い頃に見世物として晒された痣まで注目される。
コンラート公爵が彼女の横で立ち止まった。
「痛むな」
公爵は騎士団の反乱を無血で鎮めた代わりに、首謀者全員を永久追放した冷酷な男だ。彼は仮面へ手を伸ばさず、侍従から柔らかな紐を受け取る。
「替えていいか」
レティアが頷くと、金具を外し、布紐だけに結び直した。強く締めず、指一本分を空ける。以前、髪飾りを結ぶ侍女へそう頼んでいたのを見ていたらしい。
「楽です」
「ならいい」
真夜中、司会者が銀杖を掲げた。
「鐘とともに仮面を外し、素顔で未来の伴侶を選びます!」
招待客が一斉に紐へ手をかける。レティアは動かなかった。
司会者が近づいた。
「公爵閣下の隣に立つ方だけは、皆へお顔を」
「外しません」
「今夜、婚約者として紹介されるのですよ」
「その紹介にも同意していません」
広間が静まる。司会者は困ったように笑い、レティアの仮面へ手を伸ばした。
その腕を、コンラートの杖が遮る。
「触れるな」
「古い慣例でございます」
「今夜で終わりだ」
公爵は彼女の前に立って隠すのではなく、横へ並んだ。出口まで見える位置を空けたまま尋ねる。
「残るか」
「仮面のまま、最後の曲を聴きたいです」
「分かった」
司会者が婚約発表の巻物を開こうとする。コンラートはそれを閉じた。
「発表はしない」
「公爵閣下がこれほど大切になさる方なのに?」
「大切にすることと、公衆へ所有を宣言することは違う」
鐘が鳴っても、レティアの仮面は残った。
コンラートは全員へ告げる。
灯り係が銀面へ光を集めようとすると、コンラートは照明の向きを変えさせた。目立つのが嫌だというレティアの好みまで、彼は覚えている。
「暗すぎないか」
「このくらいが落ち着きます」
公爵は自分の顔も同じ薄明かりの中へ置いた。
紐の端はレティア自身がほどける長さに残されていた。公爵が外す必要も、誰かへ頼む必要もない。その小さな逃げ道まで用意されていることに、彼女はようやく息を深く吸った。
「彼女の顔も返事も、見たい者のためにあるのではない。レティアが外さないと言った限り、私であろうと触れる権利はない」