錆びた釘で竜を止める

城門の前へ、赤竜が降りた。

正規騎士は遠征中。残った守備兵は二十人。鍛冶見習いのヴァルは、曲がった槍を直すため壁際にいただけなのに、隊長から最後の命令を受けた。

「門が破られるまで三分だ。女子どもが逃げる時間を稼げ」

赤竜が息を吸う。喉の奥が白く燃えた。

ヴァルの視界に、十五歳の成人祝いでもらった《初回十連》が点灯する。戦場でガチャなど冗談だと思ったが、三分後には笑う者もいない。

引く。

鉄くず、炭、革紐、砥石。鍛冶素材が九つ。最後に出たのは、頭の潰れた錆び釘だった。

《古釘/説明:動いてはならないものを、その場へ留めます》

剣でも盾でもない。だがヴァルには槌がある。

彼は城門の外へ走った。赤竜の影が石畳を覆う。炎が吐かれる寸前、ヴァルは影の翼の付け根へ釘を置き、鍛冶槌を振り下ろした。

かん、と乾いた音がした。

赤竜の巨体が空中で止まった。

翼は羽ばたき、爪は石を掻く。それでも一歩も進めない。影だけが釘で地面へ縫いつけられている。吐きかけた炎は上空へ逸れ、雲を赤く染めた。

「今だ!」

守備兵が鎖を投げる。城壁の弩が翼を押さえ、避難していた狩人たちまで戻ってきてロープを引いた。命令されたからではない。竜が動けないと分かったから、誰もが自分にできる仕事を選んだ。

やがて赤竜は降伏のしるしに顎を伏せた。

隊長が、煤だらけのヴァルへ膝をつく。

「騎士団へ来い。いや、城付き鍛冶師として、こちらから雇わせてくれ」

ヴァルは槌を肩へ担ぎ、まだ石畳に刺さる釘を見た。

ヴァルは近づいて初めて、赤竜の首に黒い支配環が食い込んでいるのを見た。竜が城を襲ったのではない。誰かに向けられていたのだ。彼は守備兵へ合図し、拘束鎖ではなく支配環へ鉤を掛けさせた。環が砕けると、赤竜の目から怒りの赤が消える。竜は町を焼かず、空から落ちてきた支配者の紋章だけを踏み潰した。

避難していた子どもたちが城門へ戻り、焼けなかった扉に小さな竜の絵を描いた。ヴァルはそれを消さず、支配環の破片を炉へ運ぶ。次に打つのは武器ではなく、竜と町が互いに近づきすぎないための境界杭にすると決めた。

《EX級〈天地固定釘〉/固定可能対象:物質・魔法・概念》