鍛冶場に落ちた青い火

「役立たずの火守りは、今夜で解雇だ」

親方に言い渡されたイサナは、煤だらけの前掛けを外した。彼女の仕事は、名工たちが使う炉へ薪を足すだけ。剣を打たせてもらったことはない。

その夜、村の水門を支える鉄鎖が切れた。

雪解け水が堤を押し、夜明けまでに水門が外れれば下流の家々が沈む。鍛冶師たちは替えの鎖を熱したが、炉の温度が上がらない。濡れた薪しか残っていなかった。

「お前には関係ない。出ていけ」

親方の言葉を背に、イサナは解雇祝いだと皮肉で渡された一回限りの確定SSRガチャを開いた。

出たのは、青い火が灯る小さな炭だった。

《不眠の熾火》

何を燃料にしても、必要な温度を保つ。

「炉を一つ、貸してください」

笑われた。それでも彼女は最も古い炉へ青い炭を置き、濡れ薪を積んだ。火は爆ぜず、静かに広がった。炉壁の色を見た瞬間、イサナは風箱を止める。

「もう十分です。鉄を入れて」

名工が反射的に従った。鎖材は均一な橙色になり、中心まで同時に柔らかくなる。イサナは温度が落ちないことを確かめると、村人を二列に並べた。

「打つ人は交代。十回ずつ。力ではなく、合図に合わせて」

鍛冶師だけでなく、粉屋も羊飼いも槌を握った。青い火は誰が炉を開いても揺らがない。槌音は次第に一つの拍子になった。普段は炉へ入れない年少の徒弟も、焼き戻しの桶を運ぶ。親方が何度風箱を強めようとしても、イサナは鉄の色を見て静かに止めた。一本の長い鎖が夜明け前に仕上がり、水門へ渡された。

ごう、と水が止まる。

朝日が川面へ差すころ、親方は前掛けを返そうとした。

「戻れ。今度は職人として――」

イサナは受け取らなかった。

「この炉は村の共同鍛冶場にします。使った分だけ薪を持ち寄る。それなら働きます」

村人たちが頷き、古い看板を外した。その下で青い炭が一度だけ明るく燃え、空中に表示が開く。

《SSR〈不眠の熾火〉――所有権を個人から共同体へ移した最初の使用者として登録されました》