鍵のない部屋

大学近くのワンルームには、机が一つ、椅子が三つ、合鍵が四本あった。

高梨和花たちの〈ルームリンク〉は、学生同士を生活習慣で結ぶ相部屋紹介サービスだった。家賃、起床時間、喫煙、来客頻度。質問に答えれば、相性のいい相手が見つかる。利用者同士のトラブルで警察が来るまでは、そう宣伝していた。起業コンテストでは「孤独な学生をなくす」と評価され、三人は副賞でこの部屋の敷金を払った。孤独をなくす仕組みが、逃げられない同居を作るとは考えなかった。

赤松悠誠が机の傷を指でなぞる。

「質問項目に『怒ると物を投げますか』を入れても、正直に答えるやつはいない」

「でも私たち、相性九十二パーセントだったよ」

冴木周が言うと、和花は笑った。

「会社の相性と、住む相性は違う。周、冷蔵庫のプリン三回食べたし」

「名前がなかった」

「会社名が書いてあった」

三人はこの部屋を事務所兼モデルルームとして借り、半年だけ一緒に暮らした。利用者に安全を約束するためだった。だが、問題が起きた夜、三人の誰も電話に出なかった。和花は面接、悠誠は営業、周は寝ていた。

「被害に遭った子、引っ越せたって」

和花が言う。

「謝りに行く?」と周。

「もう会いたくないって。そりゃそうだよ」

悠誠は不動産会社へ就職する。

「今度は鍵を渡す前に、契約と保証人を確認する」

周は臨床心理の大学院へ進む。

「質問票の点数じゃなく、話してるときの沈黙を見る」

二人が和花を見る。

「私は地元へ帰る。市役所の住宅相談」

「まだ住まいに関わるの?」

「逃げる先がない人に、アプリを入れてとは言いたくないから」

退去立会いまで十分。悠誠が四本の鍵を机へ並べた。玄関、郵便受け、事務所、予備。三人しかいないのに一本多いのは、最初の利用者へ撮影用として渡すはずだったからだ。

周が自分の椅子を畳み、悠誠が書類箱を持って出る。和花は最後にブレーカーを落とした。

暗くなった部屋で、四本目の鍵だけが机に残った。もう開ける扉はないのに、金属の輪は誰かの指を待つように小さく光っていた。