閉店前ビュッフェ緊急会議
町の収穫祭で、交流会館に無料ビュッフェが開かれた。
開始十分で、事件が起きた。
大皿の料理は減っているのに、客の皿には山盛りの唐揚げ、焼きそば、芋の煮物が残っている。
料理長が叫んだ。
「食べ物が皿の上で遭難しています!」
実行委員たちは緊急会議を開いた。
案一、残した人を出口で呼び止める。
却下。祭りが反省会になる。
案二、大きな皿を隠す。
採用。
案三、料理名を〈絶対食べられる量だけ〉に改名する。
意味不明のため却下。
小学生の委員が手を挙げた。
「一口だけ味見して、おいしかったらまた取りに来ればいいんじゃない?」
すぐに小さな試食皿とスプーンが並べられた。
〈初めての料理は一口から。
気に入ったら何度でもおかわりできます〉
さらに、盛り付け係が尋ねることにした。
「普通、少なめ、ひと口、どれにしますか?」
最初は「普通」と答えた人も、隣の小皿を見て「やっぱり少なめ」と言い直した。
唐揚げを十二個積んだ男性には、妻が告げた。
「あなたの普通は、町の非常事態です」
四個へ減った。
子どもたちは「ひと口」を選び、気に入った煮物だけ三回おかわりした。高齢者は少量ずつ多くの料理を楽しんだ。
食べ終えた人は皿を返す前に、残っていないか確認した。
一時間後、客席の食べ残しはほとんどなくなった。
大皿に残った未提供の料理は、衛生管理のうえでスタッフ用に取り分けられた。煮物の一部は、最初から翌日の地域食堂で使えるよう別鍋に保存されている。
料理長は空の返却台を見て、目頭を押さえた。
「料理人として、こんなに美しい皿は初めてです」
小学生が尋ねた。
「でも、大皿に少し残ってるよ」
「それは失敗じゃない。食べる人の数を読み違えた、作る側の宿題です」
翌年、収穫祭の看板にはこう書かれた。
〈遠慮なく少なめを。
遠慮なくおかわりを。
一度に全部取らなくても、料理は逃げません〉
閉店前の緊急会議で救われたのは、皿の上の料理だけではない。
「残さないためには、たくさん食べなければならない」という思い込みも、きれいに片づけられた。