閉店後の赤い靴
午後九時二分、閉店したショッピングモールで、母親が警備員の小田巻怜の腕をつかんだ。
「娘がいません。赤い靴で、五歳です」
最後に見たのは三階の玩具店前。館内放送を求める声を、小田巻は一度だけ遮った。
「名前はまだ流しません。服装と場所だけ共有します」
警備室へ戻り、CCTVを巻き戻す。赤い靴は母親の後ろを歩き、風船売場で立ち止まり、閉まりかけたシャッター区画へ向かっていた。そこから先の映像には映らない。清掃員が「外へ出たのでは」と言ったが、小田巻は出口カメラを先に確認した。赤い靴は一度も一階へ降りていない。
問題は十時に全館の防火シャッターが完全閉鎖することだった。子どもが区画の間にいれば、捜索路まで分断される。
小田巻は閉鎖の自動手順を一時停止し、玩具店側から闇雲に探さず、隣の従業員通路から入った。床に、イベント用の動物の足跡シールが貼られている。小さな子なら、明るい売場より、その足跡を追う。
足跡は倉庫前で途切れた。耳を澄ますと、シャッターの向こうで風船の鈴が一度鳴った。
「赤い靴の子、ここにいる?」
返事の代わりに、細い指が隙間から出た。
女の子は、母親を驚かせようとして足跡を追い、シャッターが下り始めて怖くなり、什器の陰に隠れていた。小田巻は機械を逆転させず、店舗責任者の鍵で側面扉を開けた。誤操作でシャッターを上げれば、別の区画まで動き、人が挟まれる恐れがある。
館内放送で名前を流さなかったのは、子どもへ近づく第三者に呼び名を教えないためだった。小田巻は母親へその理由を短く説明し、今後は「保護者を探している子ども」とだけ放送する手順を店舗側にも残した。
母親に抱きついた女の子は、泣きながら風船を差し出した。
小田巻は赤い靴を見送ってから、自動閉鎖を一枚ずつ再開した。
午前零時前、最後のシャッターが床に着いた。息をつく間もなく、搬入口のインターホンが鳴る。
「夜間清掃、追加十名です」
小田巻は止めた区画の一覧を持ち、今度は大人たちを迷わせないため歩き出した。