降参の次の一手

九重野レクスの頭上に、次行動が青く表示された。

《先読み表示》

対戦相手が行動キューへ登録した「次のコマンド」を公開します。

結果や目的は表示しません。

《次行動:降参》

PK《予言者ノク》が笑い、剣を下げた。

「読めている。お前は三秒後に武器を捨てる」

二人の間には、吊り牢を支える鉄杭がある。牢の中には攫われた初心者たち。ノクはレクスが攻撃を選べば先読みし、必ず先手で殺してきた。

レクスは本当に《降参》を登録した。システム上、降参コマンドは装備中の武器を足元へ落とし、両手を上げる。

彼が握っているのは剣ではない。牢を固定する鎖の留め杭だった。

ノクは表示しか見ていない。

「最後に何か言え」

「次の一手は当たってる」

コマンドが実行される。レクスは杭を手放した。

吊り牢が落ちる――谷底ではなく、一段下の避難足場へ。初心者たちは安全圏へ着地する。同時に張っていた鎖が跳ね、ノクの両脚へ巻きついた。

「降参じゃない!」

「武器を捨てた。両手も上げた。表示どおりだ」

レクスは空の両手を見せる。

ノクは先読み画面を閉じ、鎖を切ろうとする。だが足場の警備ゴーレムが起動し、拘束者をPKとして登録した。

レクスの次行動欄には、まだ《降参》と表示されている。彼は勝利コマンドを一度も選んでいない。

《先読み表示:正答》

《実行コマンド:降参》

避難足場へ着いた初心者たちは、牢の鉄格子越しにレクスへ手を振った。彼は両手を上げたままなので振り返せない。

ノクは鎖を切ろうと次行動へ《斬撃》を登録する。その表示を見た警備ゴーレムが先に腕を固定した。予測表示は彼だけの武器ではない。

「全部読めていたのに」

「操作だけな」

レクスは降参状態のまま歩き、警備領域へ入る。勝利表示も撃破報酬も得られないが、牢の登録者全員が生存している。

ノクは未来が見えると名乗っていた。実際に見えていたのは、誰かがボタンへ置いた指一本分の予定だけだった。そこへ意味を足し、自分に都合のよい結末まで読めたと思ったことが敗因だった。

《勝者を確定――次の操作を読んだ者ではなく、その操作が世界へ何を起こすかを読んだ者》