陽の当たる階へ

環状都市ルーメンでは、高く住む者ほど長く太陽を見られる。

最上層には庭園と青空があり、中層には一日二時間の光、最下層には反射鏡の白い明かりしかない。

家賃は階の高さで決まり、身分証には居住高度が刻まれていた。

最上層のリネラと、最下層で給水管を修理するヴァスは、故障した昇降機の中で出会った。

二人は毎月、保守用の踊り場で会った。

リネラは本物の花を一輪持ってきた。ヴァスは地下水で磨いた硝子石を渡した。

やがてリネラの家族は、彼女の婚約を決めた。

同じ最上層に住む男だった。

「下へ逃げよう」

リネラは言った。

「三日も暮らせない」

「慣れる」

「君の肺は、煤に慣れていない」

ではヴァスが上へ行くには、居住高度を買わなければならない。彼の二十年分の賃金でも、中層の保証金に届かなかった。

「家の金で払う」

「それじゃ俺は、君に会うために君の所有物になる」

「そんなふうに思わない」

「君が思わなくても、扉は君の名義でしか開かない」

別れの日、二人は昇降機へ乗った。

最上層へ近づくほど、窓から本物の夕焼けが見えた。ヴァスは眩しさに目を細める。

「初めて見た」

「きれいでしょう」

「君が毎日見ていたものを、俺は一生の思い出にする」

最上層の改札で警報が鳴った。

ヴァスの身分証では、そこから先へ出られない。

リネラは自分の証を改札へ置いた。

「これを渡せば」

「君も戻れなくなる」

「一緒に下へ」

「下を、愛のために選べる場所みたいに言わないでくれ。俺はそこで生まれただけだ」

彼女は泣きながら証を拾った。

扉が閉まる直前、ヴァスは硝子石を一つ投げた。

夕日を受けた石は、彼女の掌で小さな橙色に光った。

昇降機は下りていった。

リネラの姿が消えるまで、ヴァスは上を見続けた。

その後、彼女は婚約を断り、最上層の議会で居住制度を変える仕事を選んだ。

けれど制度が変わるより先に、最下層の古い給水区は閉鎖され、ヴァスは別の環状都市へ移った。

二人が再会したという記録はない。

ただ最上層の窓辺には、花ではなく硝子石が置かれた。

誰かにとって毎日の光が、別の誰かには生涯一度の景色だったことを、忘れないために。