雨の前の白い屋上

午後の降水確率は八十パーセント。改修工事の屋上では、職人たちが空より工程表を睨んでいた。

「午前中に防水を貼り終えたい」

現場代理人の依頼に、小梶真帆は頷かなかった。昨夜の雨は止んでいる。表面も白く乾いて見える。それでも排水口の周りだけ、靴底の跡が一呼吸遅れて浮かんだ。

含水率を測る機械は規定内だった。職長は数値を示し、プライマーの缶を開けた。

真帆は透明なビニールを一枚、床へテープで留めた。十分後、裏側が薄く曇った。古い防水層を剥がした際、排水口の周囲に残った小さな窪みへ水が入り、表面だけ乾いていたのだ。ここへ新しい層をかぶせれば、晴れた日の熱で水が蒸気になり、膨れとなって現れる。今日の雨は防げても、来月の晴れに負ける。

「全面は貼りません。先に立上りを終わらせます」

「順番を変えたら、材料が余る」

「膨れて剥がすより少ないです」

真帆は屋上を四区画に分け、乾いている外周から作業させた。排水口周りは吸水機で水を抜き、温風を当てる。ただし急に熱すると内部の水分が奥から上がるため、温度を上げすぎない。ビニールを張り替え、曇りが消えるまで待った。

正午前、最初の雨粒がヘルメットを叩いた。全面の半分しか終わっていない。それでも貼った部分の端はすべて立ち上がりへつながり、水が下へ潜る隙間はなかった。未施工部には排水の道を残してある。

代理人は工程表の赤線を一本引き直した。

「今日、終わらなかったな」

「今日だけ終わらせる工事ではないので」

雨の中で職人たちが道具を片づける。真帆の携帯が鳴った。下の階で、窓枠から水が落ちているという。

未施工部へ青いシートをかけるだけでは、風で水が回り込む。真帆はシートの低い側を排水口へ導き、重しを等間隔に置いた。覆うことと、水の逃げ道を作ることは別の仕事だった。

彼女は乾いた手袋に替え、白い屋上をあとにした。防水の仕事は、雨が降ると終わるのではなく、見える場所が変わるだけだった。