雨粒の違う傘

白い傘の女を、黒い傘の男が追っていた。

商店街の二台のカメラには、そのように映っていた。最初の画面では、白い傘が走って角を曲がる。十一秒後、別の画面に黒い傘の男が現れ、同じ角へ消えた。その夜、白い傘の持ち主は行方不明となり、家族には身代金を求める電話があった。

私は雨具店で二本の傘を見せてもらった。白い傘は表面が濡れているのに、黒い傘は内側に細かな雨粒が付いていた。店主は、誰かが濡れた面を内へ畳み直したのだろうと言った。もう一つ、二本とも先端の金具が同じ場所で欠け、床に半月形の傷をつけた。

家族に届いた電話では、女の泣き声のあと、男の低い声が身代金を命じた。音声鑑定は二人分と判定した。だが泣き声が止んでから男が話し始めるまで、必ず六秒の無音がある。背景を走る路面電車のベルも、その六秒だけ不自然に途切れていた。録音を切り替える時間に見えた。

目撃者は、女が赤い靴、男が黒い長靴だったと証言した。だが濡れた路地に残った足跡は一種類だけで、右踵の外側が減っていた。商店街の角には、閉店した写真館がある。正面のカメラから見えない試着室まで、入口から五歩だった。

写真館には現像液の匂いがまだ残り、床の排水口から短い白い糸と黒い糸が絡んで見つかった。試着室の鏡には、急いで拭った口紅と黒い付け髭の跡が上下に並んでいた。入口の鈴が一度しか鳴っていないことも、古い録音機に残っていた。

身代金の受け渡し場所へ、黒い傘の男が現れた。私は追わず、写真館の裏口を塞いだ。男は中へ飛び込み、数十秒後、白い傘の女として表へ出ようとした。

コートは裏返すと色が変わり、長靴の中には赤い靴が収まっていた。傘も一本だった。骨を反転させれば白い面と黒い面が入れ替わる。

女は白い傘を開き、肩をすくめた。

「追ってきた男は見つかりましたか」

私は傘の先が床に刻んだ半月を指した。

雨粒が違って見えたのは、傘が二本だったからではない。逃げる女と追う男が、同じ一人だったからだ。