雨音より先に

雨が屋根を叩き始めたのは、午前零時を少し回ったころだった。

生活雑貨の物流倉庫で、蓑島壮一は地方店向けの積み込みを担当していた。今夜の依頼は、閉店改装に合わせた什器を一台のトラックへ載せ切ること。残りは長さ二メートルの金属棚が十二本だった。店舗では朝から大工が待ち、一本欠けても壁面の組み立てが止まる。予備車も予備の棚もない。

「四番バース、あと十分で出します」

配車係に急かされ、作業員が棚を台車ごと外へ押そうとした。壮一はシャッターの下を見て、止めた。雨水はまだ細い筋だったが、床の勾配に沿ってバース中央へ集まり始めている。

「先にトラックを五番へ移す」

「五番は遠い。間に合わないぞ」

四番のドックレベラーは、荷台との段差を橋のように埋める。だが排水口の脇に、濡れた段ボール片が貼りついていた。水が増えれば橋の表面を横切り、金属棚の台車は止まりきれない。勢いのついた二百キロが荷台の縁へ走る。

壮一は五番への移動を頼み、自分は排水口を開けた。水は渦を巻いて落ちたが、それでも四番は使わない。詰まりを取った直後ほど、残った泥で滑ると知っていた。

五番では、積み込み順を変えた。長い棚を先に床へ寝かせ、軽い段ボールを上へ組む予定だったが、すでに箱が奥まで積まれている。全部下ろせば出発に遅れる。壮一は棚を二本ずつ束ね、箱の間に作った縦の空間へ差し込んだ。最後にラッシングで固定し、急ブレーキでも前へ抜けない角度を取る。

運転手が時計を見た。

「一分超過だな」

「四番なら、一台ごと落としてたかもしれません」

壮一は伝票の遅延理由に、天候ではなく『バース変更と安全確認』と書いた。雨のせいにすれば早いが、次の夜に同じ判断を残せない。

冗談めかして言うと、運転手は濡れた床を見て笑わなかった。

トラックが出た直後、四番バースの警告灯が点いた。排水が追いつかず、水がドックレベラーの端まで来ていた。

壮一がシャッターを閉めると、無線が鳴る。

「五番、次は紙製品。雨濡れ厳禁、二台です」

屋根の雨音は強くなっていた。壮一は乾いたモップを一本取り、さっき空いた五番へ戻った。