零点零二ミリ

航空機部品の受入検査で、私は穴径のずれを見つけた。

規格外は零点零二ミリ。肉眼では分からない。だが高温と振動が重なれば、亀裂の起点になる。

「止めます」

私が言うと、杜若崇は測定票を取り上げた。

「その程度でラインを止めるから、椹木は生産性が低いんだよ」

「再測定が必要です」

「父が工場長だって忘れた? 俺が合格と言えば合格」

崇は赤字の数値を修正液で消し、出荷印を押した。私は三か月前から測定器の温度補正に偏りがあると報告していたが、返ってきたのは〈細かすぎて現場を止める社員〉という評価だった。崇は私の検査時間を半分にし、空いた机へ観葉植物を置いて「ここは考える人の席」と自分の名札を立てた。

部品は一個数百グラムでも、飛行中には何百人の命を支える。私は出荷箱へ手を伸ばし、同じロットから抜いた保存試料を、規程どおり封印した。

私は同じロットから抜いた保存試料を、規程どおり封印した。翌日、取引先の品質監査団が来た。崇は私を倉庫へ回し、自分が改善責任者だと説明していた。

監査団長が突然、言った。

「では、昨日の測定データを見せてください」

崇が出した票はすべて基準内だった。だが測定器には自動保存機能がある。原データと紙の記録が食い違い、さらに保存試料を再測定すると、同じ零点零二ミリのずれが出た。

工場長は私を睨んだ。

「検査員が機械を誤操作した可能性がある」

監査団長は首を横に振った。

「椹木さんは三か月前から校正不良を報告しています。握り潰した承認者は工場長、記録を改ざんしたのはご子息です」

社長が監査室へ入ってきた。手には臨時取締役会の議事録があった。

「杜若工場長を解任する。崇君は懲戒解雇。製造認証を維持するため、品質統括を椹木穂乃さんへ一本化する」

崇は鼻で笑った。

「取引先が、現場の女一人で納得するわけない」

監査団長は新しい取引条件書へ署名した。

「いいえ。椹木さんが責任者になることが、発注継続の条件です」

出荷台の赤い札が外される前に、崇の社員証から先に会社名が消えた。