青すぎる炭酸
清涼飲料の広告を仕上げる夜、厳原朔の画面には同じ瓶が二色あった。正面の瓶は涼しげな水色なのに、氷へ落ちる瞬間だけ、ラベルが緑に濁っている。
広告代理店からの依頼は「朝までに全カットを同じ青へ」。担当者は、緑の映像にさらにLUTを重ねれば早いと言った。朔はすぐ適用せず、白い王冠と透明な泡を見比べた。
スコープ上では、緑のカットだけ青だけでなく赤も強い。単なる照明差なら白も変わるはずだが、王冠はすでに正しい白だった。撮影時の色が違うのではない。素材を受け取る前に、誰かが一度LUTを焼き込み、その上から編集室の共通設定がもう一度かかっていた。
朔は商品見本を冷蔵庫から出し、画面の横へ置いた。広告の青は現物より鮮やかでもよいが、別の商品に見える青では困る。さらに別のモニターでも再生する。一台だけで合わせると、納品先の画面で緑が戻ることがある。締切前ほど、目ではなく比較できる基準が必要だった。
「足すんじゃなくて、片方を外します」
朔が共通設定を解除すると、ラベルは本来の青へ戻った。ただし氷は少し黄ばんだ。そこでホワイトバランスを瓶ではなく氷の白に合わせ、ラベルは最小限だけ整えた。青を強くしすぎれば、瓶の縁の光がつぶれ、炭酸の細かな泡まで消える。商品を青く見せるために、商品の冷たさを失うところだった。
三つのカットを続けて流す。瓶が回り、氷へ落ち、泡が立つ。青は途切れず、透明な炭酸だけが光った。朔は一度部屋の照明を点け、目を休ませてから再び見た。青を長く見続けた目は、緑の差に慣れてしまうからだ。
代理店の担当者は「最初からこの色でしたよね」と安心したように言った。朔は返事をせず、修正前のデータを別名で残した。翌朝、なぜ色が変わったか説明を求められることを予想していた。
午前四時、完成版の送信が始まる。すぐに別のメールが届いた。
〈同じ映像で、レモン味の黄色版もお願いします〉
朔は青い瓶を見たまま、新しい作業表を開いた。