青ではなく、紫

菫が入稿したポスターは、画面では澄んだ青だった。

印刷所から届いた色校は、灰色がかった紫だった。

原因は、画像をRGBのまま配置したこと。デザイン会社に入って三年目なら、最初に確認する項目だった。会議室の白い机に色校を並べると、紫はますますくすんで見えた。

修正費の見積もりを待つ間、菫は検索窓を開いた。

《二十五歳 デザイナー ポートフォリオ》

失敗するたびに見るページがある。自分より若い人の受賞歴、整った制作机、何万件も反応がついた作品。見終わるころには、ミス一つが才能の欠如に育っている。

指が、いつものブックマークへ動く。

そのとき色校の上に、印刷所からのメモが落ちた。

《再入稿は本日十五時まで。特色指定なら別途相談》

菫はブックマークを開かず、検索窓ごと閉じた。

代わりに制作データを開き、カラープロファイルを確認する。先輩へ《変換漏れです。再入稿と費用確認を進めます》と送る。返事は《了解。見積もり来たら共有》だけだった。

責められなかったことに安心しそうになり、菫はその安心まで疑った。叱られないと、失敗ではなかったことにしたくなる。だが机の上には、確かに紫の色校がある。

十五時前、再入稿を終えた。正しい青が出る保証は、次の色校を見るまでない。

修正費は部署の予備費から出ると決まり、菫の評価面談でも扱われることになった。代償がないわけではなかった。

菫はくすんだ一枚を丸めず、資料棚の自分のファイルへ挟んだ。見せしめにするためではなく、次回のチェック項目に使うためだ。付箋には《RGB→CMYK》とだけ書いた。《初歩的》《向いていない》は書かなかった。

帰宅後、スマートフォンが、保存していたデザイン記事を勧めてきた。

菫はおすすめ欄の設定を開き、「興味なし」を押した。画面から鮮やかな作品が消え、代わりに何もない灰色の欄が残った。

その空白を見て、今日の紫に似ていると思った。

でも、紫は失敗した青である前に、紫だった。菫はスマートフォンを伏せ、まだ乾いていない自分のネイルを、比較せずに眺めた。