青竜の歯がむずむずする日

青い幼竜がパン屋の荷車をかじっている。

その知らせで広場は大騒ぎになった。車輪は半分欠け、石畳には木屑が散っている。幼竜が口を開くたび、近所の者は「食われる」と逃げた。

パン職人の娘ミレイだけは、店先からじっと様子を見ていた。

彼女が考えた固焼きパンは、父から「石を売る気か」と一度も店頭へ並べてもらえなかった。だからこそ、硬さを必要としている噛み方が分かった。

幼竜は荷車を壊したいわけではない。前足で口元を何度もこすり、柱、樽、看板と、硬いものばかりを噛んでいる。しかも床には小さな青い歯が一本落ちていた。

「乳歯が抜ける時期なんだ」

「だから何だ。竜だぞ!」

父が止めるより早く、ミレイは厨房へ戻った。売り物にならない固いライ麦パンを取り出し、中心を抜いて大きな輪にする。砂糖は使わず、香りづけに少量の山羊乳を塗り、もう一度竈で焼いた。

かちかちになったパンの輪を、長い木べらの先に載せて差し出す。

幼竜は唸った。だが目は、パンだけを追っている。

「車輪より、こっちのほうがおいしいよ」

木べらから輪を奪うと、幼竜は夢中でかじり始めた。がり、がり、と広場に小気味よい音が響く。むずがゆい歯茎へちょうどよかったらしく、険しかった目が次第に細くなった。

パンを食べ終えた頃には、尾もゆったり揺れていた。

幼竜はミレイの前へ来ると、今度は彼女の前掛けを軽く噛んだ。父が青ざめたが、それは引き寄せるためだった。ミレイが座ると、幼竜は当然のように長い顎を膝へ載せる。

「追加を焼け、ミレイ!」

父は壊れた車輪より、幼竜が選んだパンを見て叫んだ。つい昨日まで、娘の考えた固焼きパンを「石みたいだ」と棚の隅へ追いやっていたくせに。

ミレイは笑いながら、青い鼻先についたパン屑を払った。焼きたての麦の香りをまとった顎はずっしり重く、鱗の下のぬくもりが、膝から胸までじわじわ満ちてきた。