黒いリボンの百部
二十四時間営業の印刷店で、古庄まどかが清掃札を入口へ出そうとした午前四時、黒い服の女性がUSBメモリを握って入ってきた。
「六時までに、これを百部お願いできますか。父の告別式で配るしおりです」
夜勤最後の依頼だった。データは家庭用ソフトで作られ、四ページのはずが六ページある。二ページ目と五ページ目が同じで、六ページ目は空白。写真は画面用の低い解像度だった。上司へ電話すると、「時間がないから、そのまま刷って追加料金をもらえばいい」と言われた。
女性は椅子に座ったまま、何度も時計を見た。
まどかは印刷機へ送る前に、簡易見本を一部だけ出した。折ると、故人の略歴の次に同じ略歴がもう一度現れ、最後の挨拶が裏表紙の内側へ隠れた。ページの並びが、家庭用プリンター向けのままだった。
「このまま百部刷ると、順番が崩れます。十分だけ、直す時間をください」
画像を少し小さくし、余白を揃え、重複ページを外す。写真の粗さは消せないため、無理に大きくせず、周囲へ細い黒枠を置いた。表紙の黒いリボンは、断裁位置にかかっている。二ミリ内側へ動かした。
最後に、没年の日付が一年前になっていることへ気づいた。女性へ見本を渡すと、指が止まった。
「昨日まで、父がいる前提で日付を書いていたんです」
まどかは修正箇所を指で隠さず、赤い付箋を貼って確認を待った。女性は深く息を吸い、正しい数字を告げた。まどかは、その数字を声に出して読み返してから確定した。
五時三十分、百部が揃った。急ぎ料金はかかったが、試し刷り一部と修正作業は明細へ正しく分けた。上司の言う〈そのまま〉は、短い夜には便利でも、朝に残る紙まで責任を持たない言葉だった。
女性を見送ったあと、まどかは機械の熱が残るカウンターで、昼間だけ稼働する小さな出版社の制作職募集を開いた。応募要項には〈校正を省略しないこと〉とあった。
夜勤の欠員を埋める店長候補の返事は、今日までだった。
まどかは辞退のメールを送り、そのまま出版社へ職務経歴書を添付した。