からし二袋

転校生は、肉まんにからしを二袋使った。

「辛くないの?」

私が聞くと、彼は平然とかじった。

「このくらい普通」

「この町では一袋」

「町の条例?」

「暗黙の了解」

放課後、同じ掃除当番になったのをきっかけに、私たちは駅前のコンビニへ寄るようになった。

彼は春に遠い県から来た。標準語を話そうとして、怒ると方言が出る。クラスではまだ少し浮いていた。

「前の町では、肉まんに酢醤油だった」

「嘘」

「本当」

「甘いものに?」

「肉まんは甘いものじゃない」

毎回、同じ言い合いをした。

夏が近づくころ、彼は急にコンビニへ来なくなった。掃除が終わると、一人で帰る。

クラスでは、転校前の学校へ戻るらしいという噂が流れた。

私は聞けなかった。

一週間後、昇降口で彼を見つけた。

「肉まん、もう売ってないけど」

話しかける理由がそれしかなかった。

「知ってる」

「じゃあアイス」

「金ない」

「奢る」

「借りる」

二人でコンビニへ行き、一本のソーダアイスを買った。彼は袋の上から半分に割った。

「きれいに分かれた」

春の肉まんとは違い、青い棒は同じ長さだった。

「戻るの?」

私が聞くと、彼はアイスを見た。

「父親だけ戻る。俺と母親は残る」

「じゃあ噂、違うじゃん」

「戻りたいって言ったのは本当」

胸が少し冷えた。

「この町、嫌い?」

「好きになる途中」

彼はそう言って、アイスをかじった。

「途中なのに、決めなきゃいけないのが嫌だった」

私は何も言えなかった。

代わりに、自分の半分から一口だけ折り、彼の棒へ載せた。

「何これ」

「町の条例。新入りには少し多く」

「暗黙の了解じゃなかった?」

「改正された」

彼は笑った。

秋になり、コンビニに肉まんが戻った。

彼はからしを一袋だけ取った。

「二袋じゃないの?」

「この町では一袋なんだろ」

私はもう一袋を勝手に持ってきて、彼の袋へ入れた。

「前の町も忘れなくていい」

彼は少し黙り、二袋とも使った。

辛さにむせて方言が出た。

私は笑い、彼も笑った。

好きになる途中の町で、彼の言葉だけが少しずつ混ざっていった。