くじ引き不正疑惑
席替えのくじに細工した、と学級一のお調子者が疑われた。
彼が引いたのは、好きだと公言している子の隣。しかも窓際の後ろから二番目だった。番号を開いた瞬間、彼は両手を上げて叫び、教室中から「怪しい」と言われた。
「神は俺を見ている」
「先生、もう一回引かせて」
笑いの中で、本人だけが必死に否定していた。
僕は彼の前の席になった。机を運ぶとき、床に小さな紙片が落ちているのを見つけた。くじと同じ色、同じ大きさ。拾おうとすると、彼が素早く踏んだ。
「見なかったことにして」
その言い方で、不正は確定した。
放課後、僕は彼を問い詰めた。
「先生に言う?」
彼はいつもの笑顔をやめた。
「言ってもいい。でも、隣になりたかったからじゃない」
彼が細工したのは自分の番号ではなかった。好きな子の番号を、今まで彼女の隣にいた男子から遠ざけたのだという。
その男子は、授業中に彼女のノートへ勝手に絵を描き、筆箱を隠し、嫌がると「冗談」と笑った。周りもじゃれ合いだと思っていた。彼女自身も大事にしたくないと言い、先生には話さなかった。
「だから俺が隣なら、止められると思った」
「好きだから?」
「好きだけど、それは関係なくない?」
彼は踏んでいた紙片を拾った。そこには彼女の番号が書かれていた。
僕は怒るべきだった。くじを変えるのは正しくない。けれど、正しい方法を待っている間に毎日嫌な思いをする人がいることも分かった。
「先生には言おう」
「やっぱり?」
「不正じゃなくて、隠されてたことを」
翌朝、僕らは彼女と三人で担任に話した。席替えはやり直しになった。彼は好きな子の隣ではなく、黒板の真正面へ移された。
「神、見てなかったな」
僕が言うと、彼は肩をすくめた。
彼女は廊下側の後ろになった。例の男子とは離れ、周りには話しやすい女子がいた。
新しい席へ移る途中、彼女は彼の机に小さな紙を置いた。
『ありがとう。でも次は、私にも作戦を教えて』
彼は読んだあと、紙を胸ポケットへ入れた。
「これ、告白?」
「違うと思う」
「神はまだ俺を見ている」
また教室が笑った。今度の笑いの中で、彼女も笑っていた。