そろわないタオル
小暮杷奈は、玄関のチャイムが鳴る十二分前から、洗面所のタオルを畳み直していた。
大学時代の友人が、初めて一人暮らしの部屋へ来る。たったそれだけなのに、杷奈は朝から床を三度拭き、冷蔵庫の調味料を背の順に並べ、クッションの角を定規で測ったように揃えた。
洗面所には白いタオルが三枚ある。二枚は端がぴたりと重なったが、一枚だけ洗濯で縮み、幅が一センチほど短い。上に置けば段差が目立つ。下に隠しても横から見える。
杷奈は三枚とも広げ、もう一度畳んだ。
チャイムまで十分。
友人の部屋を思い出す。木の家具、同じ色の食器、窓辺の花。写真に写った部屋には、生活の乱れが一つもなかった。杷奈も、ちゃんとしていると思われたかった。狭い部屋でも、選び方と整え方で、自分の価値を補える気がしていた。
短いタオルを引き出しへ戻し、新しいものを買いに行く案まで浮かぶ。近所の店なら往復八分。間に合うかもしれない。
そのとき、またチャイムが鳴った。
予定より早い。杷奈の胸が跳ねた。スマートフォンには「駅から近かった!」というメッセージが届いている。
杷奈は短いタオルを両手に持ったまま、鏡を見た。髪の一本が頬にかかっている。直したい場所が、次々に増えていく。
彼女はタオルを棚へ戻した。長い二枚の上に、短い一枚を置いた。端は揃えず、手を離す。三段の白に、小さな階段ができた。
杷奈は洗面所の扉を閉めなかった。
玄関を開けると、友人は紙袋を片手に立っていた。「早く着いちゃった」と言い、靴を脱ぐ。杷奈は謝りかけた。まだ掃除の途中で、タオルも揃っていなくて、と。
けれど口から出たのは、「どうぞ」だけだった。
友人が持ってきたプリンの蓋を開けるあいだ、杷奈はクッションの向きを直さなかった。洗面所へ手を洗いに行った友人が戻ってきても、タオルについては何も言わなかった。
白い一センチの段差は、そこにある。
杷奈はそれを確かめに立たず、スプーンをプリンへ入れた。表面が崩れ、きれいな円ではなくなった。