たたまない水曜日

洗濯機の残り時間は、あと十二分だった。

真帆は床に座り、回転する音を聞きながら、クラッカーを二枚かじった。夕飯ではない。けれど夕飯を作る前のつなぎ、と呼べば、少しだけまともに感じられる。

給料日まで四日。洗剤は今日の分でほとんどなくなった。柔軟剤のボトルを逆さにして振ったら、透明な液がほんの少し出た。香りが薄くても服は乾く、と分かっているのに、暮らしまで薄くなったようで寂しかった。

会社では、来月の新商品の話をしている。会議室のモニターには明るい色の服やバッグが並び、みんなが「自分へのご褒美需要」と言った。真帆も資料にそう書いた。自分へのご褒美を買えない人が、買いたくなる文章を考えた。

スマホの家計簿アプリには、今月の食費が予算を二千百円超えたと出ている。赤い棒グラフが、注意ではなく叱責に見えた。真帆はアプリを閉じ、三枚目のクラッカーを取った。

洗濯機が大きく揺れる。中でシーツが偏ったらしい。真帆は立ち上がってふたを押さえた。こんなとき、誰かが「すごい音」と言ってくれたら笑えるのに、一人だと故障の可能性ばかり考えてしまう。

回転が弱まり、やがて終了音が鳴った。

ふたを開けると、湿った熱気と、かすかな石鹸の匂いが上がる。真帆はシーツを物干し竿にかけ、シャツをハンガーに通した。靴下と下着はピンチに挟む。

残ったのは、部屋着とタオルの山だった。

いつもなら全部乾かし、たたみ、引き出しへしまうまでが洗濯だと思っている。けれど今日は、乾いたら籠から使えばいい。誰も点検には来ない。

真帆は空の洗剤ボトルをすすいで、資源ごみの袋に入れた。買い足すのは給料日の帰りにする。それまでは洗濯をしない。四日くらいなら、服は足りる。

床に戻り、クラッカーの袋を閉じた。夕飯は冷凍うどんに卵を落とすことにした。

洗濯物はたたまない。柔軟剤の匂いもしない。でも、明日のシャツはもう吊ってある。

水曜日の家事としては、それで満点にしてもいい気がした。

乾いたタオルが籠の中で少しくらいしわになっても、明日の顔は拭ける。真帆は家計簿アプリの赤い棒を見ないまま、うどんのお湯を沸かした。