どんぐり議長と忘れ物

 公園の時計が十二時を打つと、銀杏の根元へ動物たちが集まる。

 栗鼠の帽子が議長で、鳩の胸板、野良猫の薄雲、池の鴨の水玉が出席者。議事机は切り株、茶器はどんぐりの帽子。中身は雨水に金木犀の花を一つ浮かべた、香りだけのお茶だった。

 その夜、切り株の上には赤い子ども用の手袋が置かれていた。

「忘れ物です」

 胸板が拾ってきた。

「昼間、滑り台のそばで泣いていた子のものだ」

 薄雲が匂いを確かめる。

「明日の朝、戻るだろうか」

「母親は『新しいのを買おう』と言っていました」

 帽子は腕を組んだ。

「人間は、なくしたものを買い直せば同じだと思うことがある」

 水玉が嘴を羽へ入れた。

「でも、あの子は片方を握ったままだったよ」

 会議の結論は、入口の掲示板まで運ぶこと。

 しかし手袋は栗鼠には大きく、鳩には重い。薄雲がくわえると地面を引きずり、水玉は池から出たくない。

 そこで四匹は分担した。

 薄雲が手袋をくわえ、帽子が裾を持ち上げる。胸板は前を飛び、夜道の安全を確認する。水玉は池から声をかけた。

「左、もう少し左」

「見えているのか」

「月に映っている」

 途中、手袋は二度落ちた。一度はベンチの脚に引っかかり、もう一度は落ち葉へ埋もれた。そのたび動物たちは休み、どんぐり茶の香りを思い出した。

 ようやく掲示板の下へ届くと、薄雲が手袋を乾いた新聞紙の上へ置いた。帽子は目印に、銀杏の葉を三枚並べた。

 翌朝、子どもは母親と公園へ戻ってきた。

「あるかもしれない」と言い張り、昨日歩いた道をもう一度探したのだ。

 掲示板の下で赤い手袋を見つけると、子どもは両手にはめ、何度も開いたり閉じたりした。

「誰かが置いてくれたんだね」

 母親が言う。

 帽子は銀杏の枝から胸を張った。薄雲はベンチの下で寝たふりをし、胸板はいつものように首を振って歩いた。

 その夜の会議には、切り株の上へ焼き栗の香りが残っていた。昼間、子どもが屋台の袋を持って座ったからだ。

「忘れ物、返却完了」

 帽子が宣言する。

「報酬は?」

 薄雲が訊く。

「手袋を見つけた顔」

 水玉が答えた。

 動物たちはどんぐりの器を掲げた。

 秋風が銀杏の葉を揺らし、金木犀と遠い焼き栗の匂いを運ぶ。公園はまた静かになったが、ベンチには小さな赤い糸が一本残り、夜の働きを温かく記していた。