セーブデータ二番
暁人が実家の押し入れから古いゲーム機を見つけたとき、颯生は「捨てれば」と言った。
二人が義理の兄弟になったのは小学生の頃だった。最初に仲良くなったのも、最初に殴り合ったのも、そのゲーム機を巡ってだった。暁人が一番のセーブデータを使い、颯生は二番。ある日、一番のデータが消え、暁人は颯生の仕業だと決めつけた。謝罪のないまま十年以上が過ぎた。
家の建て替えを前に、二人は荷物の整理を任された。ゲーム機は電源が入らず、コードも接触不良だった。
「捨てる前に動くか見たい」
「昔のデータなんて残ってない」
「残ってないって、なんで分かる」
「電池式だから」
颯生はそう言いながら、工具箱を持ってきた。電子機器の修理を仕事にしている。暁人が埃を払い、颯生がネジを外す。中には綿埃が詰まり、コンデンサーの一本が膨らんでいた。
「部品、店にある」
「取りに行くのか」
「片づけ終わらないだろ」
「じゃあ俺が残る」
一時間後、颯生は小さな部品と缶コーヒーを二本持って戻った。暁人の方だけ微糖だった。昔と同じ選び方に、礼を言うタイミングを失った。
部品を交換し、接点を磨く。テレビにつなぐと、粗い起動画面が映った。カセットを差し、二人で息を止める。
セーブデータは一つだけ残っていた。二番。名前は〈アキト〉だった。
暁人は画面を見たまま、「俺の、こっちだったのか」と言った。
颯生は配線をまとめながら答えた。
「一番は俺。消したのは自分。裏技試して失敗した」
「なんで言わなかった」
「おまえ、聞かなかったから」
「殴っただろ」
「だから言いづらかった」
謝れば済む話ではなかった。暁人はコントローラーを握った。二番のデータには、当時クリアできなかった最後の城の前で止まっている。
「やるか」
「片づけが先」
「一面だけ」
「昔からその一面が長い」
結局、日が暮れるまで二人で遊んだ。家の処分品リストには、ゲーム機の欄だけ線が引かれた。
建て替え後、ゲーム機は暁人の部屋に置かれた。新しいテレビには変換器が必要だったが、颯生が取り付けた。帰る前、彼は空いていた一番のセーブ欄に〈ソウキ〉と入力した。
翌週、暁人は二番の続きを少しだけ進めた。城の入口で止め、一番のデータには触れなかった。コントローラーは二つとも、テレビの前に並べておいた。