バーコードのない荷物
午前一時半、航空貨物の倉庫に、白い箱が一つだけ取り残されていた。
大庭弓香の仕事は、夜明けの便へ積む医療機器をそろえることだった。白箱は形も重量も一覧と一致するのに、バーコードがない。剥がれた跡さえなかった。
「ラベルなしは保留。次便だな」
先輩はそう言ったが、送り先の離島では翌朝の検査に使うという。弓香は箱を勝手に開けず、入庫時の写真を呼び出した。写真には同じ白箱が三つ並び、中央だけ透明な袋に包まれていた。
「この袋、どこですか」
「湿気で曇ってたから捨てた。ラベルも袋についてたんじゃないか?」
ラベルが消えた理由は分かった。だが、それだけでは三箱のどれか判別できない。箱の中身は型番違いで、重さの差は百グラム未満。開封すれば清浄保証が失われる。似た箱だからと取り違えれば、必要な測定範囲の機器が島へ届かず、正しい機器も行き先を失う。
弓香は入庫記録の重量を一箱ずつ見た。計量器は小数第一位までしか出ない。三箱とも「4.2キロ」。次に、搬入用のULDへ載せた順番を確認した。写真では左からA、B、Cと積まれ、取り出し記録ではA、Cの順に出庫されている。残ったのはBのはずだった。
先輩が「それで確定だ」と新しいラベルを印刷しようとした。弓香は止めた。
「写真の左右は、撮影者から見た左右です。取り出し記録の左右は、扉側から見た左右かもしれない」
彼女は搬入を担当した作業員へ電話をかけ、箱を置いた向きを聞いた。相手は眠そうに「矢印を壁側へ」と答えた。白箱の底を鏡で見ると、壁側だった面に小さな青いインク跡がある。入庫写真の中央箱にも同じ青点が写っていた。
Bで間違いない。それでも彼女は、写真の時刻と搬入記録が同じ便であることを最後に照合した。青点だけを答えにせず、別の記録で支えた。
弓香は再発行ラベルに、元の入庫番号と確認者二名の署名を添えた。箱は締切三分前に保安検査へ滑り込んだ。
先輩が息を吐く。
「重さだけで決めてたら危なかったな」
ベルトの向こうで白箱が見えなくなると、別のULDが到着した。今度はラベルが二枚、同じ箱に貼られている。
弓香はペンを持ち直した。ないより厄介なものが、次の夜を待っていた。