一円玉が九つの首を落とす

《討伐映像、スポンサーが買ったんだろ》

《投げた硬貨に爆薬仕込んでそう》

《御影空の“指弾最強”は案件設定》

御影空は笑って、財布を逆さにした。床へ落ちたのは一円玉が一枚だけ。監査用の透明箱から無作為に選ばれた、傷だらけの硬貨だ。

疑惑を受けてスポンサーは前日に配信から降りていた。だから画面に企業ロゴはなく、硬貨を選んだのも空ではなく、批判側の代表者だった。

九頭水蛇が地下湖から首をもたげる。再生核は九つ同時に壊さなければならず、指弾一発での討伐など誰も信じていない。

「じゃあ、九回当てればいい」

空は一円玉を親指で弾いた。

銀色の点が一つ、画面から消える。

最初の首が落ちた。硬貨は湖面を跳ね、二つ目を裂く。水柱、石壁、牙、角。ぶつかるたびに軌道を変えながら速度を増し、三、四、五と首を刈っていく。九つ目を貫いた一円玉は、最初に空が立っていた場所へ戻り、差し出された指先で止まった。

水蛇の巨体が沈む。

《一発じゃなくて九連続反射だ》

《硬貨の材質データ来た。普通のアルミ、一グラム》

《爆発反応なし。加速魔法なし》

《九個の核、破壊時刻の差が〇・〇〇〇二秒》

《最後に受け止めた指、どうなってんだよ》

空は曲がってもいない一円玉をカメラへ近づけた。

「スポンサーに買ってもらった強さなら、たぶんもっと高い弾を使うよ」

疑っていた者たちが、湖壁の反射角を図に起こし始める。しかし計算を重ねるほど、初速と指先の精度が人間の範囲から外れていった。

《再現シミュレーション一億回、成功ゼロ》

《軌道は物理法則内。投げた本人だけが物理法則外》

《案件じゃなくて怪物だった》

《一円を笑った俺が一番安かった》

配信プラットフォームの右上で、広告表示が一度消えた。

代わりに迷宮庁の公式通知が差し込まれる。

【九頭水蛇・単一投射物による同時討伐を新規記録として認定】

そして最速で作られた切り抜きの題名が更新された。

『爆薬疑惑の硬貨』――ではなく、『一円で九億円級ボスを買った男』。