一冊ぶんの欠席
祖父江叶芽の机には、三週間ずっと一冊の本が置かれていた。
隣の席の朔子から借りた短編集だった。
「来週返す」と言った翌日、朔子は学校を休んだ。風邪だと思っていたら、その次の日も、その次の週も来なかった。
担任は「少し長く休む」としか言わない。
叶芽は本を返せないまま、毎朝机の中へ入れ、放課後になると取り出した。
一話目は、始業式の前に読んだ。二話目は、体育で持久走をした日。三話目は、朔子の給食当番を代わった日。
読んだ頁の隅へ、鉛筆で小さな日付を書きたくなったが、借り物なので我慢した。
代わりに、教科書の余り紙で細い栞を作った。
『月曜 席替えなし』
『火曜 購買のコロッケパン復活』
『水曜 数学の抜き打ち小テスト。来なくて正解』
読んだ場所へ、その日のことを書いた栞を一本ずつ挟んだ。
三週間目の金曜、最後の話を読み終えた。
本は栞で膨らみ、閉じなくなっていた。
叶芽は輪ゴムで留め、放課後、担任へ訊いた。
「これ、届けてもらえますか」
「本人から連絡があった。月曜に来るそうだ」
月曜の朝、朔子は何事もなかったように教室へ入ってきた。
髪が少し短く、制服の袖から細い手首が見えた。クラス中が声をかけ、叶芽だけが席を立てなかった。
「本」
朔子が先に言った。
叶芽は膨らんだ一冊を差し出した。
「ごめん。遅れた」
「何これ」
「返却遅延の言い訳」
朔子は一枚目の栞を読んだ。二枚目、三枚目。笑ったり、眉をひそめたりしながら、三週間分をめくる。
最後の栞には、短く書いた。
『月曜 返せた。』
朔子はそれを抜き、裏へ鉛筆で書き足した。
『月曜 戻れた。』
チャイムが鳴った。
授業が始まると、朔子は以前と同じように教科書を忘れていた。叶芽が半分見せると、「休んだ分、机の使い方も忘れた」と囁いた。叶芽は笑い、机を少しだけ中央へ寄せた。
叶芽は借りた本の内容より、頁の間から三週間分の学校がこぼれた朝をよく覚えている。
朔子が欠席していた時間は消えなかった。それでも一冊ぶんの厚みになって、二人の机の間へ戻ってきた。