一本だけ短いきりたんぽ
末永望海は、友人の部屋できりたんぽ鍋を囲みながら、一本だけ短いきりたんぽを自分の皿へ取った。
三人で秋田へ旅行したとき、土産物店の店主が「煮崩れない長さ」と教えてくれたものより、半分ほどしかない。鍋へ入れる前、望海が台所で折ったのだ。
来月、実家へ戻る。父の会社が傾き、保証人になっていた望海にも返済の通知が届いた。東京で借りた部屋を解約し、仕事も在宅へ変えてもらう。友人には、親孝行のためしばらく帰るとしか言っていない。
三人で始めた旅行積立には、次の春の分まで入っている。望海は自分の取り分を返そうと計算したが、金額を書いた封筒を作っただけで渡せなかった。友情まで精算するように思えたからだ。
蓋を開けると、焼いた米の香ばしさが湯気に混じった。きりたんぽの表面は出汁を吸って柔らかいのに、噛むと焼き目のところだけ小さく抵抗した。
旅行の写真を見ながら、友人が「次は冬に行こう」と言った。望海は短い一本を、さらに二つに切った。先の予定を語る声から逃げるように、ひと口ずつ小さくした。
鞄には、借金の残額を印刷した紙がある。七桁の数字を見せれば、友人は助けようとするだろう。金を借りたいわけではない。けれど、助けはいらないと言い切れるほど強くもなかった。
鍋の中に、最後のきりたんぽが一本残った。友人はそれを取らず、望海の皿にある短い欠片を見た。それから旅行積立に使っていた小さな缶を棚から下ろし、望海の前へ置いた。
中には硬貨ではなく、三人で行きたい場所を書いた紙片が入っていた。友人は新しい紙へ〈望海の町〉と書き、缶へ落とした。
望海は皿の欠片を一つだけ残した。明日へ取っておくのではない。今夜、全部を片づけなくてよい印として。
返済額の紙を取り出し、数字の部分だけを見せた。
友人は声を上げず、長いきりたんぽを鍋から取り、三つに切った。一つを望海の皿へ置き、二つはまだ鍋の縁に残した。
短くなった予定も、分ければ三人分になる。
望海は残していた欠片から先に食べた。焼き目は冷めても、きちんと歯に触れた。