三人とも最多票

三枝木理久は、自分の名前へ投票した。

乙部清花は宝生俊介へ、俊介は清花へ投票済みだった。表示板には、理久一票、清花一票、俊介一票と並ぶ。

「何をしてる」と俊介が怒鳴る。「裏切り者は一人だぞ」

「そうだね。だから三人の中に必ずいる」

規則は一文だった。

〈最多票者の中に裏切り者が含まれていれば、全投票者を解放する〉

開始時、三人には「裏切り者は一名」とだけ告げられた。清花と俊介は、最多票者を一人に絞らなければならないと思い込み、互いを説得しようとした。理久は文面の「中に」という二文字を見ていた。

票数が一対一対一なら、三人全員が同率の最多票者だ。その集合の中には、必ず一人の裏切り者が含まれる。

『最多票者とは通常、最も多く票を得た一名を指します』

「一名なら『最多得票の一名』と書けばいい」と理久は答えた。「同じ最大値を持つ者は全員、最多票者だ」

『自分へ投票する行為は想定外です』

「禁止されていない。自分が裏切り者かどうかも、僕には分からない」

清花が規則を読み返し、ゆっくり笑った。

「当てる必要がなかったのね。候補の集合を、全員に広げればいい」

残り十五秒。主催者は投票変更を促す警告音を鳴らした。俊介の指が端末へ伸びる。誰かへ票を重ねれば、その人物だけが二票となり、外した時点で全員死亡する。

理久は俊介の手首を押さえなかった。

「変えたいなら変えればいい。ただし、今は論理的に必ず正解してる」

俊介の指が止まる。

ゼロ。

〈最多票数、一〉

〈最多票者、三名〉

〈裏切り者、乙部清花を含む〉

〈条件成立〉

清花の顔が強張る。正体は彼女だった。しかし首輪は、理久も俊介も、そして清花自身も外した。「全投票者」には裏切り者も含まれている。

『裏切り者まで解放されます』

「そう書いたのはそっちだ」

三人が同じ扉へ向かう。清花は出口で立ち止まり、理久へ囁いた。

「私を疑ってた?」

「全員を疑った。だから、誰も一人に決めなかった」

背後で、一票ずつの表示が主催者の望んだ孤立を三等分していた。