不採用通知で巣を作る
【就職活動・飼育記録】
一月八日
応募一社目。不採用。
ジュウシマツのミシンとボタン、封筒の端をかじる。
紙は食べさせない。没収。
一月二十九日
不採用、五社目。
巣材用の無地紙を細く切る。
ミシン、三本運ぶ。ボタン、全部引き抜く。
共同作業は難しい。
私は二十九歳で会社を辞めた。眠れなくなり、人の声がすると息を止める癖がついた。半年休み、もう大丈夫だと思って応募を始めたが、面接ではうまく笑えなかった。
家族には「焦らなくていい」と言われた。
その言葉の後ろに「でも、いつまで」と続く気がした。
二月十八日
不採用、十一社目。
ミシンとボタン、巣箱へ入る時間が増える。
私は布団から出る時間が減る。
ある朝、餌が空になっていた。
二羽は鳴かなかった。ただ止まり木から、じっとこちらを見ていた。小鳥は飼い主の落ち込みを理由に朝食を延期してくれない。
私は起きた。水を替え、床へ落ちた殻を掃き、紙を切った。
五分で終わる世話だった。
けれど、その五分のためにカーテンを開けた。
三月三日
不採用、十六社目。
卵、一個。
履歴書の失敗欄を印刷した紙は使わず、白い余白だけ巣材にする。
三月十二日
卵、四個。
ミシンが温め、ボタンが餌を運ぶ。
役に立っているか、二羽はいちいち確認しない。
四月二日
三羽孵化。
一羽は弱く、翌朝死ぬ。
残った二羽は鳴く。
うれしい日にも、失うことはある。
小さな体を土へ埋めたあと、私は予定どおり十七社目の面接へ行った。悲しい日は何も始めてはいけない、と決めると、きっと一生始められない気がした。
空白期間を聞かれ、「体調を崩しました」と初めて正直に答えた。
「今は、毎朝決まった時間に起きられますか」
「二羽と、雛二羽に起こされます」
面接官が笑った。私も少し笑えた。
四月九日
採用連絡。
ミシン、巣材を一本落とす。
ボタン、拾わない。
祝い方が控えめ。
初出勤の朝、古い不採用通知をまとめて資源回収へ出した。一枚だけ残し、白い縁を細く切って巣箱へ入れた。
文字のある部分には、もう用はない。
けれど失敗した日々の余白なら、次の命を支える柔らかい床にできる。
帰宅すると、雛たちは初めて止まり木へ上がっていた。
私も今日、落ちずに一日を終えた。
記録の最後へ、そう書き足した。